はじめに
中村研M2の藤原です。9月に入り夏季休暇も残すところ2週間程度でもうすぐ修論を書かなくては……と焦りがありつつ、まだまだゆっくり過ごしております。
今回は2022年9月1〜3日に福知山公立大学&オンラインのハイブリット形式で開催されたエンタテインメントコンピューティング2022(EC2022)にて研究発表を行ったので、ご報告させていただきます。
研究概要
近年オンラインゲームの人気が高まっており、様々な人が娯楽として楽しんでいます。しかし、ゲームでは単純な練習量・技量ではなく,「聴力が弱いから敵の位置がうまく把握できない」「視力が悪いから敵と味方の判断する時間がかかる」などの形でアンフェアな状況が生まれていることがあり,特に「色覚多様性者」に着目しました(図1).
図1 一般色覚者と色覚多様性者の見えた方とそれぞれの割合 ©2018 SEGA ぷよぷよ
色覚多様性者は色による情報の判断が難しくなり,一般色覚者と比べて反応速度が遅くなります.ゲーム制作側はその状況ではゲームを楽しめないと考え,色覚サポートで対策を行っていますが,多くの場合は十分ではありません.そうした問題を踏まえ,私は一般色覚者と色覚多様性者が対戦するときのゲームバランスを平等にする方法の実現を目指して研究を進めています(図2).
図2 本研究の目的と立ち位置(一般色覚者と色覚多様性者間でのバトルでは歩み寄る)
これまでの研究で,ICEC2021では「彩度と明度の値に差がある」色の組み合わせが,DEIM2022では「注目したい色の明度が周りの色の明度より値が高い」色の組み合わせが両者にとって識別しやすいことがわかりました.しかし過去の研究で得られた知見が実際のゲームにおける有利不利制御につながるかはまだわかりません.そこで本研究では,実際のゲーム「Among Us」を用いて有利不利が制御可能か調査を行いました.
実験を行うにあたり一般色覚者と色覚多様性者との違いを分析する必要があるのですが,D型色覚者の方を多数集めて実験することは容易ではありません.また今後様々な色覚タイプに対応していくことを考えた場合,集めて実験することは難しくなります.そのため,今回は過去の研究と同様に,一般色覚者を対象に実験できるようにするためのD 型模擬フィルタを利用して,実験を行いました.具体的には,リアルタイムで画面をキャプチャし,D型色覚者の模擬的視覚を提示し(詳細は論文を参照下さい)、ゲームプレイ中の討論などの分析を行いました(図3).
図3 フィルタなし画面(左)とフィルタあり画面(右)
今回の実験では3つの仮説を検証しました。
- 仮説1:識別しやすい色のキャラクタは識別しにくい色のキャラクタに対して討論の場での会話量が多くなる
- 仮説2:識別しやすい色のキャラクタが識別しにくい色のキャラクタよりも討論の場での色の表現のバリエーションが少なくなる
- 仮説3:色に着目したタスクにおいて,識別しにくい色のタスクは識別しやすい色のタスクに対してこなす時間が長くなる
分析の結果、「仮説3:色に着目したタスクにおいて,識別しにくい色のタスクは識別しやすい色のタスクに対してこなす時間が長くなる」については支持された結果になりました.しかし「仮説1:識別しやすい色のキャラクタは識別しにくい色のキャラクタに対して討論の場での会話量が多くなる」,「仮説2:識別しやすい色のキャラクタが識別しにくい色のキャラクタよりも討論の場での色の表現のバリエーションが少なくなる」については一部支持された結果になりました.
今回の実験では実施回数が少なく,全ての仮説を検証することができませんでした.また今回用いたゲームは記憶が重要であり,オンラインゲーム特有の瞬発力を含む有利不利制御の検証を行っていません.
今後は先ほど述べた課題を踏まえ以下の3点に着目し、研究を行っていく予定です.
- 仮説1と仮説2の再検証
- 他のジャンルにおける有利不利制御
- 色覚多様性者 vs 一般色覚者のゲーム実験
スライドと原稿
感想
今回は3年ぶりに現地参加の学会発表でした.福知山は名前だけ知っていたのですが,案外山が多くて歩くのが大変でした.また日程的に観光できなかったので,今後また行ってみたいです.
発表はもう4回目と慣れたもので,聴講者側の反応も観れる余裕がありました.対面発表も久しぶりだったので少し緊張したのですが楽しかったです.その結果,グッドプレゼンテーション賞と最優秀論文賞を受賞することができました!忙しい中,原稿のチェックや発表練習をこまめに指導してくださった中村先生や同時期に練習していたHCI研発表組のみなさんに感謝いたします。
これからは修論に向けてより一層頑張っていきますので、温かく見守っていただけたら幸いです。
ピンバック: 中村研究室 2022年度の成果 | 中村聡史研究室