中村研では、学会発表をするとデジタルライブラリに原稿とスライドをアップするとともに、こちらのサイトで発表報告記事を書いてもらっています。その記事をみて問い合わせいただき、共同研究が始まったりしており、それにより予算的にずいぶん助けられているため、どんな発表であってもちゃんと発信することの重要性を感じています(研究室の予算の中で、お国の予算が占める割合はわずか5%まで減っています)。
今回の案件も、こうした発表報告記事および公開している論文やスライドなどからコンタクトを頂いたものになります。
中村研では、その研究室の始動タイミングで立てた研究テーマのひとつが周辺視野の利活用というものでした。当初は周辺視野への視覚刺激による印象変容の研究に取り組んでいましたが、そこから発展させ、周辺視野への刺激を利用して集中力を高めようという研究にも取り組んでいました。
その最初らへんの研究が下記になります。
SIGHCIで「周辺視への錯視図形提示によるコンテンツ視聴手法の提案」というタイトルで発表をさせていただきました。(福地翼)
HCS研究会で「タスク作業中の周辺視野への視覚刺激提示が集中に及ぼす影響の調査」というタイトルで発表してきました(髙橋拓)
こうした研究の記事をアイ・オー・データ機器の担当者さんが読んでいただき、そこからミーティングを経て技術相談をお受けすることになり、今回のテーマが始まりました。
e-Sportsの世界では24型がベストで27型は大きすぎるのだけれど、だからといってディスプレイをゲームのためだけに使うのはもったいなく、作業などをするときにはできるだけ大きなディスプレイが良いというジレンマがあるのだそうです。そこで、27型をあえて24型として使われているらしいのですが、そのときの何も表示しないスペースがもったいないという思いがあったのだそうです。
で、「その領域に、集中を促進するような刺激を提示することができれば、ゲームのスコアも上げることができるのでは?」と、我々の周辺視野への視覚刺激提示による集中促進研究に興味を持って連絡いただきました。ただ、我々が実現していたシステムには、周辺視野提示機能をもつアプリを作るか、背景に視覚刺激を提示しつつ手前に作業するウインドウを表示するといったように、コンピュータリソースを無駄に使ってしまうという問題がありました。
この問題を、アイ・オー・データ機器さんの技術によって、ディスプレイ自体に周辺視野領域に視覚刺激を提示する機能をもたせることで、コンピュータのリソースを無駄にせず、集中促進の刺激を提示することが可能になりました。ディスプレイ自体に別の画像表示機能をもたせ、その画像を切り替えながら視覚刺激を実現したそうです。こういう実装方法があるのだなと、感心させられてしまいました。
ということで、先日のTGS2024において、このディスプレイ(GigaCrysta LCD-GCQ271UD)がFocus Modeをもつものとして10周年記念モデルで展示されていました。7~8年前の研究成果にはなりますが、その研究がこうして社会実装されると本当に嬉しいものですね。
偶然ですが、この研究に取り組んでいた第1著者の髙橋拓くんと第2著者の福地翼くんが東京ゲームショウに来ており、アイ・オー・データ機器の展示スペースに来て触ってもらったり、担当者の方に紹介して色々話をしたりとでき、とても感慨深い時間を過ごせました。
時間はかかりますが、引き続き研究成果を発信していき、こうした社会実装はまたできると良いなと思ったことでした。