HCS研究会で「選択肢の逐次的表示における遅延が選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました(徳原眞彩)

      2023/10/04

はじめに

中村研究室B3の徳原眞彩です。

2023年9月11日~12日に人間環境大学の松山道後キャンパスで開催されたヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS)にて研究発表を行いましたので、ご報告させていただきます。

今回は「選択肢の逐次的表示における遅延が選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました。

研究概要

Webやアプリケーションなどでの選択をする場面において、ユーザの意図しない行動を引き起こすダークパターンが近年問題となっています。ダークパターンとはユーザインターフェースの1つであり、旅行サイトでの「○○人がこのページを見ています」といった表示や「残り在庫数わずかです!」といった表示が例となります。こういった例は、サイトの作成者がユーザに取ってもらいたい行動を容易に想像することができるため指摘が容易ですが、一方で気付きづらく指摘が難しいインタフェースも存在しています。

そこで、我々は一見選択の誘導を行っていないように見える選択インタフェースによって無意識に選択行動が誘導されてしまう可能性を考え、ダークパターンの1つである視覚的干渉に着目をして実験を行ってきました。我々の過去の研究(選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影響)では、6つの選択肢のうち1つを先行表示した場合にその選択肢の選択率がどの位置の先行表示においても期待値を上回る結果が得られ、選択誘導の効果が示唆されました。

時間差表示に誘導効果が示唆されたことから今回我々は、逐次的表示における時間差表示に着目し誘導効果があるかを調査しました。以下の動画は我々が想定する実際の動画投稿サイトでの逐次表示の例になります。

このように全ての選択肢(今回は動画サムネイル)が同時に表示されるのではなく、時間差で順番に表示されていくインタフェースを逐次的表示と今回は呼びます。

今回の調査で立てた仮説は「逐次表示を行った時、始めの方に表示された選択肢は選ばれやすい」というものと「逐次表示を行った時に遅延を生じさせた時、その1つ前の選択肢に引っ掛かりが生じて選ばれやすくなる」というものです。

実験は、選択誘導を検証する質問を15問、不真面目な実験回答者のデータを除外するためのダミー質問5問の計20問をランダムな順番で回答してもらい、その各設問の選択肢の選択率を分析しました。選択誘導を検証する質問には「親近感が沸く顔文字はどれですか?」といった質問や「次の選択肢の中で気に入った四字熟語はどれですか?」といった質問のように回答者が事前に答えを持ち合わせていないような問題を選定しました。ダミー質問には1番大きい湖や1番大きい都道府県を答えるものなど、読めば必ず答えられるような問題を選定しました。

選択肢の逐次表示は全ての質問において行いました。以下の画像は逐次表示のイメージ図になります。

このように左上から順に選択肢を時間差で表示していきます。今回の実験ではこのnを0.1に固定しました。人間には初めの方に見たものの記憶が高まるという初頭効果が存在します。今回は左上の選択肢が一番初めに表示されるため、この効果により初めの方に表示された選択肢は印象強く残るという考えのもと、初めの方に表示された選択肢は選ばれやすいという仮説を立てました。

今回はこの逐次表示に遅延を加えた調査も行いました。選択誘導を検証する質問は15問行いましたが、このうちの5問に対して逐次表示中に遅延を起こしました。以下の画像は遅延を起こした時の逐次表示のイメージ図になります。

選択肢が時間差で表示される点は先ほどと変わりませんが、1つの選択肢のみ他の選択肢よりも時間差が長く設定しました。こうすることで、上の例であれば回答者は「スイカ」の選択肢が出た画面で一瞬止まったような印象を受けます。そのため、「スイカ」の選択肢に注目し選択率が高まるという仮説を立てました。今回の実験ではこのmを0.1 , 0.2 , 0.3の中からランダムに選ばれるよう設定しました。以下の動画は逐次表示で遅延が起きた時の実際の実験ページ例になります。右下に引っ掛かりの印象を受ける動画です。

実験はYahoo!クラウドソーシングを利用して行いました。男性1000人、女性1000人の計2000人からの回答を得ました。

実験の結果、逐次表示した時の選択率は位置によって大きな差が出なかったことが分かりました。以下の結果のグラフの黒い点線は6択の選択肢の期待値である、16.67%をしめす線となっています。

中央上の選択肢の選択率が期待値を上回っていますが、これは実験システムの設計上の影響であると考えています。左上の選択率が期待値程度であるため、逐次表示において先行して表示された選択肢への誘導効果は示唆されませんでした。

また、遅延を起こした時の引っ掛かり選択肢の選択率の大きな変化も見られませんでした。

引っ掛かり選択肢は中央上、右上、右下、中央下の4つの選択肢に生じる設定にしました。こちらも期待値を大きく上回る結果とはならず、引っ掛かり選択肢への誘導効果も示唆されませんでした。

一方で、条件毎に選択率を分析していくと誘導効果が見られる条件もありました。

表より、遅延時間が0.2秒の時に引っ掛かり選択肢の前の選択率が期待値を上回っていることが分かります。

今回の調査では、どの条件においても逐次表示に誘導効果があるという結果は得られませんでした。今後は、選択肢を画像にする事で回答者が選択肢の認知までにかかる時間を減らしたり、アイトラッカーで視線を計測することによる逐次表示の目線の動きへの影響を調査する予定です。また、条件によっては遅延に気づけないといった意見も頂けたため時間間隔を変更しての調査も考えています。

発表スライドと論文情報

発表スライド

論文情報

徳原眞彩, 木下裕一朗, 髙久拓海, 小松原達也, 中村聡史. 選択肢の逐次的表示における遅延が選択に及ぼす影響, 信学技報 ヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS), 2023

おわりに

今回が初めての学会発表でしたが、研究会の方々が発表前にお声がけをしてくださったり、優しい雰囲気で質問等をしてくださっていたおかげで、緊張することなく練習通りに発表することが出来ました。ありがとうございました。また、興味深い研究内容や今後の調査が気になる発表も多く、とても勉強になりました。

初めての四国地方でしたが、松山城や今治のタオルなど有名な建物や名産品を多く見られたのでとても楽しめました。一方で、四国地方のファミリーマート限定でファミチキピザというのがあるらしく、今回の移動の中で探していたのですが残念ながら見つけられませんでした。

 

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