HCS研究会で「画像選択肢の逐次的表示における視覚誘導型遅延が選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました(徳原眞彩)

投稿者: | 2024年6月25日

はじめに

中村研究室B4の徳原眞彩です。

2024年5月13日~14日に沖縄産業支援センターで開催されたヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS)にて研究発表を行いましたので、ご報告させていただきます。

今回は「画像選択肢の逐次的表示における視覚誘導型遅延が選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました。

研究概要

Webやスマートフォンアプリなどでのサービス提供の場において、ユーザの意図しない行動を引き起こすデザイン「ダークパターン」が近年問題になっています。ダークパターンとはユーザインタフェースの1つであり、旅行サイトでの「○○人がこのページをみています」といった表示や「残り在庫数わずかです!」といった表示のようにユーザを誘導するようなものが例となります。こういった例は、サイトの作成者がユーザに取ってもらいたい行動を容易に想像することができるため指摘が容易ですが、一方で気付きづらく指摘が難しいインタフェースも存在しています。

そこで、我々は一見選択の誘導を行っていないように見える選択インタフェースによって無意識に選択行動が誘導されてしまう可能性を考え、ダークパターンの1つである視覚的干渉に着目して実験を行ってきました。我々の過去の研究(選択肢の逐次的表示における遅延が選択に及ぼす影響)では選択肢の時間差表示に着目し、6つの選択肢を逐次表示した場合にどのような選択行動が見られるかの調査を行いました。

以下の動画は我々が想定する実際の動画投稿サイトでの逐次表示の例になります。

このように全ての選択肢(今回は動画サムネイル)が同時に表示されるのではなく、時間差で順番に表示されていくインタフェースを逐次的表示と今回は呼びます。

また、以下の動画は前回の調査の実験イメージになります。

このような時間差で選択肢が表示されるようなサイトを作成し、調査を行いました。結果的に一部の条件下で若干の選択率の偏りが見られましたが、選択行動に大きな影響を与える可能性は示唆されませんでした。

選択行動に影響を与えなかった理由として、選択肢が文字で表示されるため文字を読むのに時間がかかり逐次表示に追い付けていないことや選択肢内容による誘導が行われてしまうことなどが考えました。そこで、今回の調査では選択肢になるべく差のない同じ内容を指す画像選択肢を用いることによってこれらの要因をなるべく低減した調査を行いました。

今回の調査で立てた仮説は前回と同じく、「逐次表示を行った時、始めの方に表示された選択肢は選ばれやすい」というものと「逐次表示を行った時に遅延を生じさせた時、その1つ前の選択肢に引っ掛かりが生じることによって視線誘導が起こり選ばれやすくなる」というものです。

実験は、選択誘導を検証する質問15問、不真面目な実験回答者のデータを除外するためのダミー質問5問の計20問をランダムな順番で回答してもらい、その各設問の選択肢の選択率を分析しました。選択誘導を検証する質問には「一番行ってみたいと思う海の景色はどれですか?」といった質問や「自宅に飾りたいチューリップを1つ選んでください」といった質問のように同じ内容の画像の中から1つ自分の好みに合うような画像を選んでもらう形式にしました。ダミー質問には「写っている人数が一番多い写真を選んでください」のように読んでから回答を行えば必ず答えられるような問題を選定しました。

選択肢の逐次表示は全ての質問において行いました。以下の画像は逐次表示のイメージ図になります。

このように左上から順に選択肢を時間差で表示していきます。人間には始めの方に見たものの記憶が高まるという初頭効果が存在します。今回は左上の選択肢が一番始めに表示されるため、この効果により始めの方に表示された選択肢は印象強く残るという考えのもと、始めの方に表示された選択肢は選ばれやすいという仮説を立てました。

今回もこの逐次表示に遅延を加えた調査も行いました。選択誘導を検証する質問は15問行いましたが、このうちの5問に対して逐次表示中に遅延を起こしました。以下の画像は遅延を起こした時の逐次表示のイメージ図になります。

選択肢が時間差で表示される点は先ほどと変わりませんが、1つの選択肢のみ他の選択肢よりも時間差を長く設定しました。こうすることで、上の例であれば回答者は左下の選択肢が出た画面で一瞬止まったような印象を受けます。そのため、左下の選択肢に注目し印象が他よりも強く残ることにより選択率が高まるという仮説を立てました。以下の動画は逐次表示で遅延が起きた時の実際の実験ページ例になります。右上に引っ掛かりの印象を受ける動画です。

実験はYahoo!クラウドソーシングを利用して行いました。男性1,000名、女性1,000名の計2,000名からの回答を得ました。

以下の結果のグラフは、遅延を起こさずに逐次表示を行った時の各位置の選択率になります。黒い点線は6択の選択肢の期待値である、16.67%を示す線となっています。

どの選択肢も期待値前後となり、左上の選択率も期待値程度であるため、逐次表示において先行して表示された選択肢への誘導効果は示唆されませんでした。

また、以下のグラフは遅延を起こした時の引っ掛かり選択肢の選択率になります。

右下を除く5つの選択肢に引っ掛かりが生じるようになっていますが、こちらも期待値を大きく上回ることが無かったため、引っ掛かり選択肢への誘導効果も示唆されませんでした。

一方で、以下は選択肢の表示が始まってから選ぶまでの選択時間ごとに分けた上下段選択肢の選択率になります。

グラフより、選択時間が2秒から4秒の比較的短い時間で選択した設問においては下の段が選ばれやすい傾向にある事が分かりました。始めの方に表示されたものが印象に残りやすい初頭効果を仮説で挙げましたが、逆に最後の方に表示されたものが印象に残りやすい新近効果という現象もあるため、それが適用されたのではないかと考えています。

今回の調査でも、逐次表示とその遅延が選択行動に大きく影響を与えるという結果は示唆されませんでした。今後は、選択肢の表示間隔や遅延を起こした時の遅延時間、画像の枚数等を変えることによって今回の調査の環境以外において逐次表示が選択に影響を与えるかどうか調査することを考えています。

発表スライドと論文情報

発表スライド

論文情報

徳原 眞彩, 木下 裕一朗, 髙久 拓海, 中村 聡史. 画像選択肢の逐次的表示における視覚誘導型遅延が選択に及ぼす影響, 信学技報 ヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS), 2024.

おわりに

初日に体調を崩してしまい一部のセッションを見ることがかないませんでしたが、2日目の発表は無事に行うことが出来たので良かったです。HCS研究会での発表は2回目でしたので、特に緊張することもなく練習通りに発表することが出来ました。ありがとうございました。先輩方から引き継いで行っているダークパターン研究ですが、今までの調査では取り入れていなかった考え方や質問を頂き、とても勉強になりました。

10数年ぶりの沖縄県でしたが、沖縄らしい風景や料理に懐かしさを感じながら楽しむことが出来ました。学会は5月の半ばで東京はまだ少し肌寒さなどがありましたが、沖縄はとても暖かく楽しむことが出来ました。

 

最後になりますが、ご指導いただいた中村先生、共著の先輩方、研究室の皆さんに感謝申し上げます。夜遅くまで何度も加筆、修正等して頂きありがとうございました。

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