はじめに
今年度より中村研究室に配属されましたB3の植木里帆です。
2020年12月8、9日の2日間にわたって淡路島で開催された第190回HCI研究会に参加してきましたので、報告をさせていただきます。新型コロナウイルスの影響で現地/オンラインのハイブリッド型開催となり、私は現地で「三択の選択肢における要因の違いが選択行動に及ぼす影響の調査」というタイトルで発表させていただきました。
研究内容
今回の研究は、三択の選択肢がある選択場面において、どのような要因が選択行動に影響を及ぼすのかを実験により明らかにしたものになります。
まず、日常的に些細な選択場面は数多くあります。例えば、喉が渇いたから自動販売機で飲み物を買おうと思っても、甘いものが好きだったり、今日は頑張ったから贅沢しよう!と少し値段の高いものを選んでみたり、寒い日には温かいものを選びたくなったりしますよね。このようにちょっとしたことで選択が左右される場面において、その選択に”フォント”が影響している可能性があると考えました。
と、ここで突然ですが、ある心理効果について紹介したいと思います。三択における選択誘導の例としてゴルディロックス効果というものがあります。ゴルディロックス効果とは、
三段階の選択肢があるときに、人は真ん中の選択肢を選びやすい傾向があるという心理現象
のことを言い、別名「松竹梅の法則」とも言われます。
上の画像の例のように、3サイズのポテトではMサイズが最も選ばれやすいのです!そして、この効果がフォントにおいても現れるのではないかと考えました。
上の例ではポテトの”量”が3段階になっています。そこで、フォントにおけある印象軸について、3段階のものを考えます。具体的には、下の画像のように「ある印象軸上に乗った3段階のフォントが同時提示されれば、その印象軸上で真ん中に位置するフォントが選ばれやすいのでは?」と考えました。
しかし、いろんな印象軸において3段階のフォントを見つけ出すには大変な労力を必要とします。そこでOBである斉藤絢基さんによって開発された「Fontender」を利用することにしました。Fontenderでは、任意の既存フォントを融合し、新たなフォントを生成することができます。そして、多くの融合フォントについて、フォントの印象値もその間の値をとることが多いことを明らかにしています。つまり、Fontenderを利用すれば、2種類の既存フォントを融合することで印象が中間になるフォントを簡単に生成できるのです!
以上のことから、「三択において、ある印象軸上にのった2種類のフォントとその印象軸上で中間に位置する融合フォントの計3種類で同時提示されると、融合フォントが選ばれやすい」という仮説を立てました。この仮説を検証するため、三択の選択タスクを設計し、Yahoo!クラウドソーシングというサービスを利用した大規模な実験(1000人、1000人、1500人)を行いました。
結果は、融合フォントが選ばれやすいというわけではありませんでした。なるべく選択肢の選好が影響しないようにマイナーな選択肢を用意したのですが、知っているものと響きが似ているものだったり、音のニュアンスに引っ張られてしまいマイナーな選択肢であっても選好の偏りが生じてしまったことがひとつ原因として考えられました。
仮説については異なる結果が得られましたが、三択の選択肢を全て異なるフォントで提示するのではなく、同じフォントで提示した場合に面白い結果が得られた選択カテゴリがひとつありました。さて、みなさん、みそ、しょうゆ、とんこつの中でどれが好きでしょうか?
このようにラーメンの味を「明朝体」で提示した場合では「とんこつ」が、「ゴシック体」で提示した場合では「みそ」が圧倒的に選ばれやすいという結果になりました。面白いです。
また、明朝体とゴシック体の融合フォントで提示した場合は、明朝体、ゴシック体それぞれで提示した場合の選択率の差より小さくなることがわかりました。つまり、選択肢に合致するイメージのフォントがあり、融合フォントの印象値は確かに中間に位置していたことを確認できました。このことから、例えば「みそ」と「とんこつ」の人気投票をし、みそととんこつの選択にバイアスをかけたくない場合は、融合フォントを使うべきだと言えます。
そのほかにもデバイスによって表示位置別の選択率に違いが生じることがわかりました。具体的にはPCでは真ん中が、モバイル端末では右が選ばれやすいようです。これもなんとも面白い結果でした。
実験を通した全体的な課題としては、実験協力者の年代の偏り、表示選択肢の文字の歪さ、フォント数の少なさが挙げられました。今後はこういった課題を改善していきたいと思っています。
詳細は下記のスライドや原稿をご参照ください。
スライド
感想
初めての学会発表で大変緊張しましたが無事発表することができ、安堵しております。このご時世ですので現地発表できたこと、とても嬉しく思います!
淡路島!!素敵なところでした!!!!
美味しいご飯が食べられて幸せでした。
また、一緒に淡路島へいった2人のおかげで楽しい旅になったことは言うまでもありません。
ここでひとつお詫びしたいことがあります…。「アザクワ」という犬の名前ですが、正しくは「アザワク」でした………..。ご指摘いただいた方には深く感謝いたしますとともに、私は地の底まで沈みたいです。
いろんな失敗がありましたし、まだまだ未熟ではありますが、今回の発表を通してほんの少しは成長できたように思います。更なる成長を暖かく見守っていただければ幸いです!
最後に!この場をお借りして、ご指導いただいた横山さん、野中さんをはじめとする先輩方や同期、そして中村聡史先生に感謝いたします。ありがとうございました!!
ピンバック: 2022年度 修了生:横山 幸大【修士(理学)】 #33 | 中村聡史研究室
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