はじめに
中村研究室B3の三山貴也です。
2023年9月11日, 12日に愛媛県の人間環境大学松山道後キャンパスで開催されたヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS)にて研究発表を行いましたので、ご報告させていただきます。
今回は「周辺視野への視覚刺激の提示が読み込み中のページ離脱率に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました。
研究概要
PCやスマートフォンでWebページを表示するとき、通信の遅延などによって読み込み時間が発生します。このような読み込み時間は長ければ長いほどユーザにとっての負荷となり、読み込みが長い場合には読み込み完了まで待ちきれずにページを離脱(戻るボタンをクリック)してしまうことも考えられます。そのため、実際の読み込み時間を短くするだけでなく、ユーザに読み込み時間を短く感じさせることが重要になります。また先行研究において、プログレスバーの周辺視野に視覚刺激を表示することで体感時間が短縮することが明らかになっています。
そこで我々は、Webページの読み込み中にプログレスバーと視覚刺激を表示することで体感時間が短縮され、ページ離脱率が減少すると考えて調査を行いました。今回は読み込み中の画面表示として、スロバーのみ(スロバー条件)、プログレスバーのみ(プログレスバー条件)、プログレスバーと周辺視野への視覚刺激(プログレスバー+視覚刺激条件)の3種類を用意して比較実験を行いました。
実験では、検索結果のように複数のページが一覧表示されている状況で必要な情報をページ遷移して探す場面を想定しました。検索結果画面から各ページにアクセスするとランダムな時間(1~10秒)の読み込み時間が発生し、読み込みが完了するとページ内容が表示されます。ここで、読み込みが完了する前に戻るボタンがクリックされた場合、ページ離脱が発生したことになります。
実験はYahoo!クラウドソーシングを利用して行い、PCを対象として合計600名の回答を得ました。なお、クラウドソーシングを利用して実験を行うためWeb実験環境統制システムを実装しました。ここでは、フルスクリーン上にブラウザを模したインタフェースを表示し、そのインタフェース内でブラウジングを行うことによって、画面サイズの統制をしつつ、ながら作業の防止を目指しています。
実験の結果、スロバー条件ではプログレスバー条件とプログレスバー+視覚刺激条件に比べてページ離脱率が高い傾向がありました。また、プログレスバー条件とプログレスバー+視覚刺激条件では離脱率に大きな差はみられませんでした。
また、特定の待ち時間までの累積離脱率を表したグラフをみると、プログレスバー条件(橙)ではプログレスバー+視覚刺激条件(緑)に比べて離脱率が上昇するのが早い傾向がみられました。
また、読み込み開始から離脱が発生するまでの時間について分析を行った結果、スロバー条件では読み込み完了まで残りわずかのタイミングで離脱が発生しているケースがみられました。一方、プログレスバー条件とプログレスバー+視覚刺激条件では読み込み開始から3~4秒までに発生した離脱が多くを占めていることがわかりました。下のグラフは、縦軸が「ページに設定された読み込み時間」、横軸が「読み込み開始からの経過時間」となっており、「読み込みに〇秒かかるページにアクセスしてから△秒で離脱した」ということを表しています。
以上ことから、スロバーでは残りの読み込み時間が可視化されていないことによって離脱率が高いこと、プログレスバーでは読み込みが長いことをユーザが察知するとすぐに離脱することが考えられます。また、プログレスバー条件とプログレスバー+視覚刺激条件を比較すると、視覚刺激によるわずかな体感時間短縮によって離脱の発生が少し遅れることが考えられます。
今後は、ページ離脱がより多く発生するような実験設計によって離脱の性質についてより詳しく検証する予定です。また、今回はPCを対象として実験を行いましたが、スマートフォンを対象とした実験も行っていきたいと思います。
発表スライド
論文情報
おわりに
自分にとっては初めての学会発表でしたが、HCS研究会の方々がとても良い雰囲気をつくってくださり、適度にリラックスして発表することができました。また他大学の学生や先生方の発表を聴講することもでき、研究テーマや実験手法について新たな視点を得ることができました。
また、今回は愛媛県松山市に3日間滞在しました。鯛めし、じゃこ天、みかんジュースなど、美味しいグルメをたくさん食べて充実した時間を過ごすことができました。
最後になりますが、ご指導いただいた中村先生、共著やグループの先輩方、研究室のみなさんに感謝申し上げます。様々なアドバイスをいただき、ありがとうございました。
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