第215回HCI研究会にて「デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が観察学習時の観察力に及ぼす影響の調査」を発表しました(江森柊哉)

投稿者: | 2025年12月6日

はじめに

こんにちは!B3の江森柊哉です!2025年11月26日から11月27日に淡路夢舞台国際会議場(兵庫県淡路市)で開催された第 215回ヒューマンコンピュータインタラクション研究(HCI215)にて、「デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が観察学習時の観察力に及ぼす影響の調査」というタイトルで発表しましたので,その報告をさせていただきます.

背景

昨今の世の中では,デジタルデバイスの普及に伴い教育現場でのデジタル化も進んでいます.そんな教育現場で配布されるデバイスのほとんどが筆圧検知機能を持たないものとなっています(共著者の先生のお子さんの小学校はiPadにペンが同梱されていなかったそうです).筆圧検知機能がないと色々な問題がありそうですが,それらを使用することによる学習上の影響が明らかとなっていません.この問題に対して先行研究(小林宮崎津田)では算数や数学の学習時に筆圧の有無がどのような影響を与えるのかについて調査してきました.私はそれとは違う点に着目することにしました.

 

さて,みなさんはそもそもどのような時に濃淡表現を用いますか.絵を描く時に濃淡表現がないと困るという人が多くいると思います.筆圧表現がないことによって描写が制限されると,絵を描くことを通して行う学習にも影響が出ると思いませんか.

そこで本研究では,「観察学習におけるスケッチ」に着目し,筆圧表現がある場合と筆圧表現がない場合とで,観察にどのような差が生じるかについて調査しました.具体的には筆圧による濃淡表現によって表面の質感(テクスチャ)や構造をより細かく描写できる可能性などが考えられます.

実験

本研究では,筆圧による濃淡表現の有無が学習効果にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とし

  • H1「筆圧によって線の濃淡が変わらない場合には変わる場合に比べ,観察対象のテクスチャや構造への理解度,自己効力感が低下する」
  • H2「筆圧が多様な変化幅を見せる学習者は対象をより詳細に観察している」

という仮説のもと実験,分析を行いました.

実験は,筆圧による濃淡表現がある群筆圧による濃淡表現がない群の2群間における実験者間比較で行いました.実験内容は,実験協力者に顕微鏡とタブレットを用いて火成岩の観察,スケッチを行ってもらい,その後観察力チェックテストを実施するというものです.また,全てのタスク終了後に自己効力感(スケッチに対する自信)についてのアンケートも行いました.実験を通して,筆圧による濃淡表現がある群の方が観察力チェックテストの点数が高く,自己効力感も高い,などの結果を得ることができれば,筆圧表現の有用性を確かめることができそうです.

スケッチの様子

結果

実験のデータから,仮説に則したものとそうでないものも含めいくつか興味深い結果が得られたので,抜粋して以下に実際の結果を示します.

 

                           観察力チェックテスト 問題別得点

まず,左上に示す観察力チェックテストの総合得点に関してですが,こちらは仮説通りの結果とはならず,条件間で大きな差は見られませんでした.また,自己効力感についてもこちらも仮説通りとはならず,条件間で大きな差は見られなかったです.その他の結果について,筆圧による濃淡表現がある群を主として述べますと,右上のグラフからは構造に関する得点が高いこと,左下からは黒色の岩石の得点の点数が高いこと,右下からは問題7(色の識別に関する設問)の得点が高いことがわかります.ここに示す,結果以外にもスケッチ時間,ストローク数,ストローク長,筆圧分布などにも条件間で差が見られました.

得られた結果をまとめると,筆圧による濃淡表現がある群では,対象物の構造に関しての観察力が高くなる可能性色の識別が行いやすくなっていた可能性意欲的にスケッチに取り組む学習者の観察力の向上を促す可能性などが考えられます.

本研究の内容を踏まえて,今後は個人の能力の差を考慮した実験設計や,デジタルとアナログ間での比較を行っていくことでより厳密に筆圧表現が及ぼしている影響のみを調査することができると考えています.

書誌情報

 

発表スライド

終わりに

今回の学会発表が初めてということで,緊張することもありましたが,みなさんのサポートのおかげで無事に終えることができました.他大学の研究の中にいくつも気になる研究があり,普段得れないような刺激も受けることができたため,とても有意義な時間になったなと感じています.

また,会場となっていた淡路夢舞台からの景色や朝のビュッフェには感動を覚えました.淡路夢舞台は無くなってしまうとのことで残念ではありますが,最初の学会として最高の体験をすることができたので今後忘れることはないと思います.

最後になりますが,何事も拙く,できることの方が少ないような私を丁寧にご指導してくださった中村先生,様々な研究活動にご協力いただいた研究室の皆様に心より感謝申し上げます.

淡路夢舞台からの景色

 

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