HCGシンポジウム2022で「デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が正答率に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました(小林沙利)

   

はじめに

こんにちは,中村研B3の小林沙利です.

2022年12月14日~16日に開催されたHCGシンポジウム2022にて発表を行いましたので,その報告をさせていただきます.

研究概要

デジタル教育が普及し始めており,タブレット型機器が全国の学校で導入されつつあります.しかし,タブレットをはじめとしたデジタル上で手書きが可能なデバイスを用いた教育はまだ初期段階であり,様々な問題が議論されています.

そのうちのひとつが筆圧による表現が反映されない機器があるという点です.

まず,筆圧による表現とは何かについて説明します.

筆圧は,強弱をコントロールすることで濃淡や太さを表現できることが特徴です.鉛筆やシャープペンシルを用いて字を書く際に,力を入れると濃く太い字が,反対に力を入れないと薄く細い字になりますよね.この特性は,問題を解くときにも活用されています.例えば,図形問題の作図において,図形そのものを濃く書き、求めた辺の値は薄くメモ代わりに書いた経験がある方は多いのではないでしょうか.

このように,私たちは筆圧を書く内容に合わせて調節しています.そのため,タブレットを用いた手書きでも筆圧の変化が反映されなければ,字の練習や計算問題の回答,絵の練習といったように学習の様々な場面において悪影響が現れるのではないか?と考えられます.

そこで本研究では,その中でも計算問題に着目し,デジタル手書きにおける筆圧の濃淡表現の有無が算数の問題に及ぼす影響を調査しました.

実験では,大学生・大学院生を筆圧による濃淡表現が反映される条件(以下、筆圧あり条件とします)と反映されない条件(以下、筆圧なし条件とします)に分け,タブレットとペンを用いて四則演算の筆算問題を解いてもらいました.

こちらは実験に使用した筆算問題の例となります.実験に使用した問題の一部

 

また,こちらがそれぞれの条件における解答例となります.

筆圧あり条件の解答例

筆圧なし条件の解答例

筆圧なし条件では,ペンの色の濃さが一定になっていることが分かるかと思います.

この濃淡表現の違いが問題の解答にどのような違いをもたらすかを分析しました.

 

その結果,割り算の正答率において,筆圧あり条件と筆圧なし条件の差が大きく現れました.

計算の種類ごとの正答率

 

不正解問題について間違いの理由を分類したところ,筆圧なし条件では,繰り上がり・繰り下がりの過不足や数字の見間違いが筆圧あり条件と比べて特徴的な誤答理由として現れたことが分かりました.

各誤答理由の条件ごとの割合

 

こちらは数字の見間違いによる不正解の例となります.


見間違いによる不正解の例

二段目の計算について,227に商の2桁目である9を掛けた答えは2043となりますが,画像の解答では2015となっています.この間違いは,227に9の真下にある5を掛けた結果7×5=35となり計算がずれたことが理由だと考えられます.これは,ペンの黒色と問題の黒色の濃さが近かったため起きた間違いである可能性があるため,筆圧なし条件におけるペンの色の調整が今後の課題となりました.

また,こちらは各条件における繰り下がり計算を比較した画像となります.

各条件における繰り下がり計算の比較

一段目の引き算で,471の十の位である7に注目していただくと、7を繰り下げて6にしていることが,筆圧なし条件より筆圧あり条件の方が分かりやすくなっています.このような条件による数字の視認性の違いが正答率に影響したのではないかと考えています.

以上をふまえ,デジタルぺンの筆圧による濃淡表現が計算の正確性を高める点で重要である可能性が示されました.

今後は,

  • 実験参加者を筆算の初学者である小中学生に変更すること
  • 筆圧なし条件においてペンの色を変更すること

などを行っていきたいと考えています.

 

発表スライドと論文情報

発表スライド

デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が筆算の正答率に及ぼす影響 by @nkmr-lab

論文情報

小林 沙利, 植木 里帆, 関口 祐豊, 中村 聡史, 掛 晃幸, 石丸 築. デジタルペンの筆圧による濃淡表現の有無が筆算の正答率に及ぼす影響, HCGシンポジウム2022.

感想

初めての学会発表となりましたが,学会の開放的な雰囲気のおかげで落ち着いて発表することが出来ました.先輩方と発表会場である香川県の探索もできて,楽しい4日間となりました.

こちらは香川県内の特別名勝である栗林(りつりん)公園です.凛々しくも落ち着きのある景観でした.日本庭園は,視界に映るもの以外全て抜け落ちてしまったのではないかと錯覚させる静けさを感じるので好きです.

 

最後になりますが,論文執筆と発表準備に関して手厚くサポートして頂いた中村先生および研究室の皆様に心より感謝を申し上げます.

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