はじめに
こんにちは.中村研究室B3の木下裕一朗です.
2022年11月8日~9日に淡路島で開催された第200回HCI研究会にて研究発表を行いましたので,ご報告させていただきます.
今回は「選択インタフェースにおけるアイテムの遅延表示が選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました.
研究概要
Web上で購入や販売,予約や投票など,様々なことができるようになった一方で,ダークパターンと呼ばれる問題が生じています.ダークパターンとは,ユーザが意図しない有害な行動を導くUIデザインを指す言葉で,特に通販サイトや予約サイトでよく見られます.
本研究では,一見すると選択を誘導していないように見える選択インタフェースによって無意識に選択行動が誘導されてしまう場合があると考え,ダークパターンの一つである誘導型の視覚的干渉に着目しました.Webにおいてシステムやインターネットの問題によって,画像が遅れて表示されることがあることから着想を得て,我々は複数選択肢から選択する場面で一つの選択肢の表示タイミングをわずかに遅らせると,人は遅れて表示されたものを選びやすいのではないかと考えました.
実験は好きな野菜や好きな果物といった質問に対して,それぞれ6つの選択肢から1つ回答を選んでもらうというもので,全15問中5問のみで遅延表示を行いました.遅延表示を行った場合,6つの選択肢のうち5つが最初に同時に表示され,わずかに遅れて残り1つが表示されます.遅延時間には0.1,0.2,0.3秒の3つを用意し,遅延時間による影響の違いを分析しました.
遅延時間0.1秒(左上を遅延表示)
遅延時間0.2秒(左上を遅延表示)
遅延時間0.3秒(左上を遅延表示)
実験はYahoo!クラウドソーシングを利用して行い,男女各1000名の回答を得ました.
実験の結果,全体では遅延表示したものが選ばれやすいという傾向は見られませんでした(6択のため,各選択肢が選ばれる期待値は16.67%).
各試行での選択時間に着目し,選択時間が短いグループ,中程度のグループ,長いグループの3つに分類して分析を行いました.分析の結果,いずれのグループにおいても遅延表示したものが選ばれやすいという傾向は見られませんでした.
また,遅延表示を行った位置によって遅延表示したものの選択率が変化するかどうか分析しました.まず,選択時間が短いグループについての結果を示します.各棒グラフの位置は実際の表示位置に対応しています.また,点線は期待値を示しています.ここでは,各位置で遅延表示した全データを100としたときの百分率で示しています.
図の結果より,選択時間が短いグループでは,短い遅延時間で上のものを遅延表示すると選択行動を誘導できてしまう可能性が示唆されました.
次に,選択時間が中程度のグループについての結果を示します.
図の結果より,選択時間が中程度のグループでは,遅延表示によって選択行動を誘導できてしまう可能性は低いということが示唆されました.
選択時間が長いグループについての結果を下に示します.
図の結果より,選択時間が長いグループでは,遅延時間に応じて遅延させる位置を変えると選択行動を誘導できてしまう可能性が示唆されました.
今後は,質問内容や選択肢数を再検討して再実験を実施する予定です.また,今回の実験では視線の動きを取得していなかったため,アイトラッカーを用いた対面の実験を実施し,遅延表示したものが選ばれやすいとき,あるいは選ばれにくいときはどのような場合かについて明らかにしていく予定です.
発表スライドと論文情報
発表スライド
論文情報
感想
初めての学会発表で緊張しましたが,自分の研究についてコメントをいただけたり,面白い研究発表を多く聞くことができたりして,とても貴重な経験となりました.
論文添削や発表のチェックなど,学会当日までサポートをしてくださった中村先生,中村聡史研究室の皆様に心から感謝申し上げます.
淡路島は本当に綺麗な場所で,ご飯も美味しかったです.宿泊したホテルからの眺め(下の写真)も最高でした.また,先輩方が色々と予定を計画してくださったおかげで,とても楽しい旅となりました.
研究会でいただいた意見を参考に,これからも研究を頑張っていきたいと思います.
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