はじめに
こんにちは,中村研B4の重松龍之介です.
2025年3月17日〜19日に京都で開催されたEC75にて『コンテキストに応じたデジタル時計の部分強調表示による行動変容手法』というタイトルで発表を行なってきましたので,ご報告をさせていただきます.
研究概要
背景
私たちは日常的に時計を見ながら時間を管理していますが,それでも予定通りに行動できないことがあります.例えば,朝の準備では,出発時刻を意識しながら進めても,気づいたら時間が過ぎてしまうことがあります.これは,作業に集中すると時間の認識が低下し,時計を見ても時刻が記憶に残りづらく,何度も確認してしまうことが原因の一つと考えられます.
時間を管理するにあたって,一般的にはアラームやタイマーが用いられますが,これらは「時刻になったことを知らせる」手法です.本研究では「その時刻までの時間の中で時刻を自然に認識できる」仕組みを提案します.そのために,時計を見る場面(コンテキスト)に着目しました.
デジタル時計は「時・分・秒」の情報を表示しますが,常にすべてが必要なわけではなく,コンテキストによって注目する部分が変わります.例えば.試験前は「試験まであと○時間」と考えるため「時」に注目し,試験中は「残り何分か」を気にして「分」を見ます.終了間際では「秒」に視線が向かいます.このように,時計の注目する部分はコンテキストによって変わるため,それに応じた時間の認識を促す方法が求められます.
目的
作業に没頭していて時刻への意識が薄れている状況でも普段の時計を見る動作の中で自然と時刻を認識させることで,時間を過ぎてしまうといった問題や表面的な時刻の確認を防ぐことです.
提案手法
- ユーザが置かれているコンテキストの認識
- 注目する部分のサイズを変えて強調
表示の変化一覧
実験
実験目的
没頭状態において提案手法の時計を用いて時間管理を行うことで,
- 指定時刻の遅れ
- 時計を見る回数
への影響を検証します.
実験概要
- 没頭を促す作業(タスク)に長時間取り組んでもらう
- タスク中に短時間で完了する作業(ミッション)に指定時刻を設けて取り組んでもらう
タスク内容:端の形が分かりにくいピースを用いたパズル
ミッション内容:
- 写真の奥に配置された時計を見ながら時間を管理
- 20分おきに指定された物(ティッシュ箱または電話)を触る
強調表示の変化の基準
- 「分」と「秒」に注目するコンテキストのみ
- ミッション直前で表示を変化させる
- タスクに没頭しているかどうか
- 時計を見る回数が少ない→没頭
- 時計を見る回数が多い→非没頭
結果と考察
①ミッションの指定時刻と実際に取り組んだ時間がどの程度離れていたか
ミッションの指定時刻付近において,通常表示群ではミッションを数秒遅れる人がある程度いるのに対し,強調表示群では数秒遅れることが少なく,その分指定時刻通りにミッションを行える件数が多かったです.
このことから指定時刻より前の時間から時間を意識することが促されたと考えれらます.
②時計を見た回数
このグラフより,強調表示群の方が通常表示群に比べて四分位範囲や分散が小さいことがわかりますが,検定を行ったところ有意な差は見られませんでした.
時計の配置場所などの他の影響があった可能性があるため,それらの分析やそれらを考慮した実験を行なって行こうと考えています.
③時計を見た回数と遅延時間の関係
時計を見た回数が少ないこの部分を見てみると,通常表示群では遅延時間が長く上の方に分布している傾向が見られますが,強調表示群ではどの人も短く下の方にまとまっていることがわかります.
強調表示では時刻を確認する回数が少なかったとしても,その少ない回数の中で適切な時刻認識が促され,指定時刻に遅れなかったと考えられます.
発表スライド
論文情報
おわりに
1年4ヶ月ぶり2回目の学会発表でした.まだまだ慣れない部分も多かったものの,この1年間の取り組みの成果をしっかりと発表できたと思います.
この3日間はスケジュールがかなり詰まっていたため,京都らしいことはあまりできませんでしたが,多くの研究室メンバーと共に参加でき,とても充実した時間を過ごせました.
原稿作成や発表練習にあたり,ご協力いただいた皆さまに心より感謝申し上げます.