はじめに
中村研究室M2の又吉です.2020年9月7日-8日に函館で開催される予定だった第189回 ヒューマンコンピュータインタラクション研究会 (HCI) でオンライン登壇発表を行ってきました.
発表スライドの様子
発表内容
背景
大学の初年次プログラミング教育においては,学生によってレベル差が激しいのでそうした学生さんたちをどう教えるのかということは大きな課題です.ここで,共著者のこれまでの数年にわたる大学初年次のプログラミング教育の経験から,タイピング速度の遅さや,プログラミングに利用される英単語,カッコやセミコロンなど特殊文字の入力に抵抗があることが初学者の妨げとなっている一因であることが観察されていました.
目的
そこで,プログラミングを用いたタイピング練習を繰り返し行うことで,タイピングと基本命令の定着を目指すタイピングシステムの実装と実践を行いました.
設計指針
ただやみくもに文字の羅列としてタイピング練習(写経)を行うのは苦痛です.そこで,タイピング課題を工夫し,またプログラム内で入力不要のコメントを提示してその行で書いていることの意味の理解を促したり,1行ごとに逐次実行を行うことで徐々に出来上がっていくといったように,「プログラムの理解を促す仕組み」とタイピングをスコア化し自己ベストを目指したり,同級生と比較できるようなランキング表示を行うことで内外発的動機づけを狙った「練習したくなる仕組み」を設けました.
実装
設計指針をもとに typing.runを実装しました.実際にアクセスして,ログインなしで試すことができますので,お試しください.以下の動画のような挙動が確認できると思います.
システム:typing.run – プログラミング講義予習のためのタイピングシステム
運用
このシステムを用いて,明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科の学部1年生必修授業プログラミング演習Ⅰで運用を3ヶ月に渡って行いました.118名が運用に参加し,88055回タイピングが行われました.
その結果,全員のスコア(Character Per Minute/CPM)の平均値からタイピング速度が成長していることや下位層の底上げが示唆されました.
タイピングスコア(CPM)を時系列順に集計し,50分割ごとに求めた全員の平均値が上昇していることから全体的にタイピング速度が成長している
83問ある問題ごとの標準偏差がだんだん低くなっていることから下位層の底上げが示唆される
さらに111名から集計したアンケート結果より,タイピングの得意に関する評価値(-2から2の5段階)がシステム運用前に比べて後の方が得意になったと感じている人が79名おり,約71%もの割合を占めました.
運用後から運用前の評価値を引いた差分の人数
今後の予定
typing.runは,Processingを対応言語として逐次実行や描画,コンソール出力に対応しており,現在,p5.jsへの対応,Python3系への対応を進めています.他の言語でもサポートすることで幅広い分野のプログラミング初学者への運用を行っていきたいです.
スライド
発表に関する詳細な内容は発表スライドや論文を参照してください.
感想
2019年7月に開催されたHCI186で札幌には行ったので,2020年は函館で海産物やハンバーガーを食いまくって楽しもうと思っていましたが,残念なことにオンライン開催になってしまいました.函館には行ったことがないので,またの機会に行こうと思います.
ピンバック: 2020年度 修了生: 又吉 康綱【修士(工学)】#20 | 中村聡史研究室