はじめに
はじめまして!中村研究室B3の金谷一輝です!
2024年8月24日・25日に兵庫県立大学商科キャンパスで開催されたヒューマンコミュニケーション基礎研究会(HCS)にて研究報告を行いましたので、ご報告させていただきます。
「画像選択肢の段階的表示速度の違いが選択に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました。
研究概要
背景
いきなりですが、みなさんは通信遅延や画像のファイルサイズが大きいときに、以下のように画像が表示されるのを見たことがありませんか?
このように上から段階的に表示される画像の表示形式として、JPEG画像では「ベースライン形式」、PNG画像では「非インタレース形式」と呼ばれています。
我々は、この段階的表示の速度に着目し、選択インタフェースにおいてこの表示速度が他の選択肢と異なる場合、ユーザの選択を誘導し得る可能性があり、ダークパターンに該当するのではないかと考えました。ここでいうダークパターンとは、ユーザの意図しない行動を誘発するデザインを指します。
先行研究(選択肢の時間差表示が選択行動に及ぼす影響)では、6つの文字選択肢のうち1つを先行表示した場合に、その選択肢の選択率がどの位置の先行表示においても期待値を上回る結果が得られ、選択誘導の効果が示唆されました。本研究では、先行研究で用いられた文字選択肢に対し、実際の選択インタフェースでよく見られる画像選択肢を対象とし、さらに上記の画像の段階的な表示形式に着目しました。
本研究では4択の画像選択肢における段階的な表示速度の違いが人の選択行動に及ぼす影響を明らかにするため、4択の画像選択肢が段階的に表示されたとき、「そのうち1つの表示速度が (1)速い選択肢は選ばれやすい、(2)遅い選択肢は選ばれにくい」という2つの仮説を立て実験を行いました。
実験
選択誘導を検証する質問を15問、不真面目な実験参加者によるデータを除外するためのダミー質問を5問の計20問を実験参加者ごとにランダムな順番で回答してもらう実験です。選択誘導を検証する質問には「一番行ってみたいと思う海の景色はどれですか?」や「自宅に飾りたいチューリップを1つ選んでください」といったような同じ内容の画像の中から自分の好みに合う画像を1つ選んでもらう形式にしました。またダミー質問には「3階建ての家を選んでください」のように、質問文と選択肢に目を通せば、誰でも必ず正解できる問題としました。
段階的表示の速度として、以下の3種類を用意しました。
- 等速条件:4枚すべてが同じ速度で表示される
- 先行条件:4枚のうち、1枚が速く表示される
- 遅延条件:4枚のうち、1枚が遅く表示される
各実験参加者には、誘導効果を検証する15問の内訳としては先行条件と遅延条件で計10問、残りの5問を等速条件としました。ダミー質問はすべて等速条件としました。
以下の動画が実験のイメージ映像となっています。
実験はYahoo!クラウドソーシングを利用して行いました。男女500名ずつの計1,000名から回答を得ました。
結果
実験の結果としては、段階的表示の速度が速い、つまり先行表示したものが選ばれやすく、速度が遅い遅延表示したものは期待値程度の選択であることがわかりました。また各位置での選択率について分析を行いました。
各棒グラフの位置は実際の選択肢の表示位置に対応しており、点線は4択における期待値の25%を示しています。グラフの各数字はその位置で先行・遅延表示を行った時のその位置の選択率を表しています。
左図の先行条件の結果より、どの位置においても期待値である25%を大きく超えていることがわかりました。つまりどの位置で先行表示を行っても選ばれやすいということですね。これより仮説(1)の「表示速度が速い選択肢は選ばれやすい」は採択されました。
右図の遅延条件の結果より、上段の2か所では期待値を下回る結果に、下段の2か所では期待値程度となりました。仮説(2)に対しては、この結果では選ばれやすいとも選ばれにくいとも言えない結果となりました。
考察
先行表示については、先行選択肢が他の選択肢よりも先に画像全体が表示されるため、最初に目についたものが強く印象に残る初頭効果が表れたと考えています。
この結果より、選択インタフェースにおいて、選択肢となる画像の提供者が画像のファイルサイズを調整し、特定の選択肢を意図的に早く表示させることで、ユーザの選択を誘導できる可能性が示されました。したがって、先行研究と合わせて選択肢が文字であるか画像であるかにかかわらず、選択インタフェースにおける先行表示がダークパターンとなりうるということが明らかになりました。
今回は画像の段階的表示に着目をしましたが、今後は以下の動画のような別の表示形式である画像の解像度変化による選択誘導効果について検証する予定です。
質疑でいただいた質問
- 人は買い物などの選択において、どの選択肢に魅力を感じるかが選択の基準となる。今回の実験では魅力とはまた違う複雑な選択基準を定めていたのでは?
- 先行条件や遅延条件の秒数はどのようにして決めたか
- 実験設計において、変化させる1枚の位置はランダムにしたとのことだが、どのようなランダムを用いたのか
- 解像度変化による選択誘導効果を検証する例として漫画サイトの例は適切か
発表スライドと論文情報
発表スライド
論文情報
おわりに
今回が初めての学会でしたが、学ぶことが多くすごく楽しかったです!学会1日目の夜に開催された懇親会では本格的な中華料理(紹興酒やフカヒレを人生で初めて食べました)を堪能し、また他大学の先生方の貴重なお話を聞くことができたりと、すべてが良い経験だったなと感じています。
自分の発表は2日目だったのですが、かなり緊張していて一部の説明を飛ばしてしまうなど、後悔が残るものとなりました。この悔しさを次の学会に向けての励みにしたいと思いました。また質疑で質問をいただいた先生方と発表後にお話をして、さまざまな意見を伺うことができました。いただいた意見を今後の研究に生かしていきたいですね。
今回のHCS研究会が無事に終わったのは、運営をしてくださった皆さんのおかげです。準備や進行など、本当にありがとうございました。
3年生の4月から研究を始め、8月の学会に参加できたのは間違いなく一緒に行った同期のおかげです。同じ目標に向かって頑張る同期は大切にしたいですね~。そして、初めての学会がこのメンバーでよかったなと思ってます!先輩方は急遽学会に参加することになったにもかかわらず、我々後輩のことを気にかけていただき本当に感謝してます!同期・先輩方のおかげで楽しい神戸観光ができたと思います!自慢で最高の先輩ですね~~~。
最後になりますが、実験システムから論文執筆、発表スライドに発表練習とサポートをしていただいた中村先生、共著の先輩方、研究室のみなさんに感謝申し上げます。本当にありがとうございました!
B3 金谷一輝