はじめに
こんにちは,中村研究室M2の髙野沙也香です.
2025年3月5~7日に開催されたに第212回ヒューマンコンピュータインタラクション研究会で「Make-up FLOW 2.0: 美容系YouTuberの化粧フローチャートの共有・取り入れ手法」というタイトルで発表しましたので,そちらについて報告をさせていただきます.
研究内容
化粧をする皆様,YouTubeなどのSNSで新しいコスメや化粧法について検索したことはありませんか?
そして,新しい化粧法を知り「いいかも!」と思って1度は試したけれど,それ以降その工程を忘れてしまって,結果的に自身の化粧工程が変わらない…なんてご経験はございませんか?
私は化粧工程を構造化・表現する手法が無く,工学的に扱えないことがこの原因の1つであると考えました.
そこで私は,これまで化粧工程をフローチャートで表す手法を提案し,その応用方法について検討を行ってきました.
- 個人の頭の中にしかなかった化粧工程をフローチャートで表し,情報として扱えるようにする
→HCI200:「Make-up FLOW: 個人差・状況差の大きい化粧工程の構造化と忘れやすさに関する調査」 - 他者間の化粧フローチャートの類似度算出手法を検討する
→HCI204:「化粧フローチャートに基づく大学生・大学院生の化粧類似度推定」 - 化粧フローチャートの類似度に基づいて,化粧のチュートリアル動画を推薦する手法を検討する
→HCI206:「化粧フローチャートに基づく美容系YouTuberの動画推薦手法の検討」
その結果,HCI200で発表した研究において,実験協力者より他者の化粧工程を閲覧することで化粧法を学習できる可能性が示唆されました.
そこで今回の研究では,他者(*今回は美容系YouTuberに限る)の化粧フローチャートを共有し,その工程を自身のフローチャートに取り入れることが可能なシステムMake-up FLOW2.0の提案・実装を行いました.また,システムを利用した実験を通して,他者の工程取り入れ機能が化粧法の習得支援においてどのような効果をもつのか検証を行いました.
Make-up FLOW 2.0
提案システムには化粧フローチャート作成機能,動画/フローチャートの検索・ソート機能,他者の化粧工程の取り入れ機能の3つの機能があります.
まず,ユーザはシステムにアクセスした後,フローチャート作成画面において自身のフローチャートを作成します.
その後,ユーザはトップ画面に遷移し,検索やソート機能を使用して動画/フローチャートの探索を行います.
なお,トップ画面にはYouTubeのように動画情報を表示する画面と,動画情報と共に動画の化粧フローチャートを提示する画面の2つを設置しました.
トップ画面(左:動画一覧表示画面 右:フローチャート一覧表示画面)
そして,気になった動画/フローチャートを見つけたら動画視聴画面に遷移し,動画とフローチャートを同時に閲覧することができます.
なお,動画を視聴する中で取り入れたい工程を見つけたら,自身のフローチャートを右側に提示して,ドラッグ&ドロップで対象の工程を取り入れることが可能です.
また取り入れた工程については,フローチャート作成画面において工程に結びついている動画を確認可能としました.
実験
上記のようなシステムを用いて,システムの特徴である他者の工程取り入れ機能の化粧法習得支援における効果の検証を行いました.実験協力者は女子大学生・大学院生4名であり,実験は以下のような2部に分けて行いました.
- システム利用実験:大学の卒業式をテーマに元となる化粧フローチャート作成し,その後システムを1時間自由に利用して,卒業式当日に実際に行いたい化粧フローチャートを完成させる実験
- 化粧実践実験:システム利用実験で作成した化粧フローチャートに忠実にメイクを行う実験
システム利用実験の結果,実験協力者4名が視聴した計40本の動画のうち25本で工程の取り入れが行われました.
システム利用実験結果
そして化粧実践実験の結果,実験協力者が取り入れた39工程のうち31工程が効果的に作用しており,平均化粧満足度も4.75/5点と非常に高いことが分かりました.
化粧実践実験結果
以上の結果より,システムにおける化粧工程取り入れ機能はメイクの腕前に対する自信の獲得への第一歩となる可能性が示唆されました.
またその他にも,化粧フローチャートを提示することで,動画視聴前にユーザにとっての動画の有益度を測ることができるなど,化粧フローチャート活用の効果が示されました.
今後は,システムで扱える化粧動画を柔軟に増加可能とするため,動画から自動で化粧フローチャートを生成する手法について検討を行い,システムの利便性を向上させたいと考えています.
化粧工学が切り開く未来
今回の実験を通して,化粧工程を工学的に扱うことの効果がいくつか示されましたが,化粧工学の可能性はまだ多く存在していると考えています.最後にそのうちの2つを示します.
- 化粧工程GitHubの誕生
今回のシステムでは美容系YouTuberのフローチャートのみを共有しましたが,今後一般ユーザのフローチャートを共有可能とすれば,それは化粧工程におけるGitHubの誕生に繋がると考えられます.
これまで個人の中で留めてきた工夫がデータ化されることで,ユーザが美容系インフルエンサーなどの有名人から一方的に学んでいた状態が,”他者から学び,他者もユーザから学ぶ”という循環に変わるのではないかと思っています.
また,多くのユーザの化粧フローチャートを工学的に扱うことで,統計分析や流行の把握,推薦などへの応用も可能であると考えています.
- 他の化粧支援手法への適応と効果向上
化粧フローチャートの特徴として,他の化粧支援手法に適応可能な点が挙げられます.例えば,これまでにユーザの顔写真などからユーザに適した化粧や,その実現のために必要なアイテムを推薦する研究が行われています.この研究に化粧フローチャートを適応することで,実際にユーザがどのような手順でその化粧を行えば良いのかを提示することができ,よりその効果を高めることができるのではないかと考えています.
発表スライド
Make-up FLOW 2.0: 美容系YouTuberの化粧フローチャートの共有・取り入れ手法 by @nkmr-lab
論文情報
感想
春になると無性にいちご大福や,春をモチーフにした練り切りを食べたくなるのって何なんでしょうか,髙野です.
今回は初めて東京の学会に行ってきました!荷造りが必要無いので前日もゆっくりしていて,明日本当に学会なんだろうか…?と思いました.
これといって観光はしませんでしたが,夕食に美味しいトンカツやイタリアンを味わうことができてとても嬉しかったです!
美味しい美味しいトンカツ
学会では,以前に修士学位請求論文 面接試問において類似した内容で発表をしていたため,過去一落ち着いた状態で発表することができました.学会には3日間参加させていただきましたが,非常に面白い研究が多く,とても学びの多い日々でした.これまで数多くの研究がありその分だけ歴史があるので,今我々が思いつくような研究は全てやり尽くされているのではないか?と一見思ってしまいますが,全くそんなことは無いのだなぁと改めて実感しました.
最後に,修論を完成させるまで,HCI212で発表できるまで支えてくださった,中村先生および中村研究室の皆様本当にありがとうございました.
これが人生最後の研究&学会かも?と思うと少し寂しくはありますが,今は目の前にある新しい道に意識を向けて,またいつか人生のどこかで研究と交差したら面白いな〜と思いつつ,これまでの4年間の研究生活,6年間の学生生活を締めたいと思います.
本当にありがとうございました!!!