はじめに
中村研B4の藤原です。すでに春の花粉が飛び始め、家でゲームする日々が続いています。最近は「For The King」というゲームにはまっています。興味があれば是非調べてみてはどうでしょうか。
さて、2021年1月28〜29日にオンラインで開催された第191回ヒューマンコンピュータインタラクション研究会(HCI191)にて研究発表を行ったので、ご報告させていただきます。
研究概要
近年オンラインゲームの人気が高まっており、様々な人が娯楽として楽しんでいます。しかし、ゲームでは単純な練習量・技量ではなく、「聴力が弱いから敵の位置がうまく把握できない」「視力が悪いから敵と味方の判断する時間がかかる」などの形でアンフェアな状況が生まれていることがあります。こういったハンディキャップを持つ人の中で、私は特に「色覚多様性者」に着目して研究を行いました。
色覚多様性者が見える色は普通の人とは異なる見え方をします。そのため色による情報の判断が難しくなり、一般色覚者と比べて反応速度が遅くなります。ゲーム制作側はその状況ではゲームを楽しめないと考え、色覚サポートを実装し、色覚多様性者が見えやすい状況を作っています。しかし、それだけではまだ十分ではないと私は考え、本研究ではさらに、一般色覚者に歩み寄ってもらい、一般色覚者側の難易度を上げ、色覚多様性者の難易度を下げることでバランスを取る方法をの実現を目指しています。
本研究ではこの「様々な特性がある色覚多様性者がゲームをプレイする際の色によるハンディキャップをなくす」ことを最終目的とし、この目的を達成するために本研究では特に「両者間で有利不利が制御可能なゲームの作成」に着目し、調査を行いました。
図1 今後の研究の最終目標
しかし、一般色覚者が識別しにくく、色覚多様性者が識別しやすいといった色を調べるための指標は存在しません。そこで、まず今回は色覚タイプの中で比較的割合が多いD型(Deuteranope)色覚者に着目し、識別容易色の調査を行うことにしました。識別容易色は造語になり、「色覚多様性者が識別しやすく、一般色覚者が識別しにくい色」と定義します。
基礎調査を行うため、一般色覚者と色覚多様性者との違いを分析する必要があるのですが、D型色覚者の方を多数集めて実験することは容易ではありません。また、今後様々な色覚タイプに対応していくことを考えた場合、集めて実験することは鎧難しくなります。そのため、今回は一般色覚者を対象に実験できるようにするため、色覚多様性者の見え方をシミュレートするフィルタを利用し、色を判別する実験を通して色の違いを明らかにすることにしました。具体的には、D型色覚者の模擬的視覚を提示し(詳細は論文を参照下さい)、実験を行い、反応速度などの分析を行いました。
実際の実験画面が下の図になります。選択肢の中で異なる色を「標的色」、選択肢の中の大半の色を「基本色」と名付けます。実験では「標的色」を素早く、かつ正確に選択してもらい、選択するまでにかかった時間と正答率を分析対象としました。
図2 実験提示画面
実験に使用した標的色と基本色、またその色の組み合わせごとの正答率と平均回答時間が表1になります。この結果からさらに、ゲームで使用することを目的としているため、分析対象を「正答率が0.7以上、かつ平均回答時間が6秒以下」の色の組み合わせに限定し、分析を行いました(表2)。
表2の分析より、一般色覚者にとって識別しやすい色と識別しにくい色、またD型色覚者にとって識別しやすい色と識別しにくい色が表3になりました。また、D型における識別容易色としてなりうる要因として、「彩度と明度の値に差がある」ことがわかりました。これらは識別容易色として調査する上で重要な指標ではありますが、今回は2色のみに限定し実験を行なったため、識別容易色となりうる要因としてはまだ不十分であると考えます。
表1 色の組み合わせごとにおける正答率と平均回答時間
表2 「正答率が0.7以上、かつ平均回答時間が6秒以下」の色の組み合わせにおける正答率と平均回答時間
表3 両者における有利不利な色の組み合わせ
今後は以下の3点に着目し、研究を行なっていく予定です。
- D型以外の色覚タイプにおける識別容易色の調査
- 実験協力者の対象を色覚多様性者に同様の実験・分析
- 複数の色における識別容易色の検討
また、識別容易色を用いたゲームにおける有利不利が実際に可能かどうか検証していきます。
スライドと原稿
感想
コロナウイルスの影響で大学にもまともに行けない中での学会発表でした。初の沖縄に行きたかったのですが………落ち着いたら個人的に旅行に行こうと思います。
今回の学会発表はオンラインでの開催という事でネットが逝かないか不安でしたが、当日も特に問題なく終えることができました。でもやっぱり人の顔を見ながら発表する方が程よい緊張感があっていいなと思います。(笑)年末年始の忙しい中、原稿のチェックをこまめに行ってくださった中村先生や先輩方に感謝いたします。
今年度で大学は卒業になりますが、来年度から大学院に進学しまだまだ自分のやってみたい事などに挑戦していきたいと思います。来年度からは私が後輩を見る立場になる事を考えると不安しかないのですが、頑張って精進していきますので温かく見守っていただけたら幸いです。
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