はじめに
お世話になっております.中村研究室B4の小林沙利です.
2024年1月15日・16日に那覇市で開催された,第206回ヒューマンコンピュータインタラクション研究会で「色選択インタフェースにおける錯視の影響の調査」というタイトルで発表しましたので,そちらについて発表報告をさせていただきます.
研究内容
この研究は,色選択インタフェースで起きる錯視現象について検証したものです.
プレゼン用の資料やイラストなどのデザインを作成する方は,その過程で色を選択する行動を多く行っているかと思います.特に,ソフトウェア上の色選択では,カラーパレットやカラーピッカーなどの色選択インタフェースを用いて色を選択することが多いです.ここで,色選択インタフェースを観察してみると,白,暗い灰色など様々な背景色があることがわかります.この背景色が色選択に影響を及ぼしていることはご存じでしょうか?
ここで,ある2つのパレットで画像左にある灰色と同じ色を選びたいと思ったとします.それぞれのパレットで,どの色を選ぶのが正しいでしょうか?
正解は,どちらのパレットも,左側の列の下から三番目にある色です.
ご覧になっているディスプレイ次第ではありますが,パレット1とパレット2で違う位置の色を選んだ人がいるのではないでしょうか.
このように色を見間違えてしまうのは色選択インタフェースの起こす錯視が原因であり,特に明るさの印象が異なってしまう現象について,明るさの対比という錯視が関わっていると我々は考えました.
明るさの対比とは,周囲の色によって色の明るさの印象が異なって見える現象を指します(参考).
先ほど示した2つのパレットも,パレットに表示されている色自体は同じなのにも関わらず,周囲の色が違うことで明るさの対比現象が発生していると考えられます.
このような錯視現象により選んだ色と実際に塗りたい色の印象が異なると,デザインが自身のイメージと変わってしまい,その修正に手間がかかってしまいます.
そこで我々は,錯視に考慮した色選択インタフェースを実現するための基礎調査として明るさの対比に着目し,「色選択の際に周囲の色にどのような影響を受けるのか?」を調査しました.
実験では,下のシステムを用いて見本と同じ色を選択するタスクを行いました.
まず,画面上部に見本色が表示され,右下にあるカラーピッカー上で色を選んだら,その選択色が左下の枠の中に表示されるので,そちらを見ながら色を調整するというものです.
この枠の色,つまり周囲の色を変えると選ぶ色に変化はあるのかという調査を行いました.
まず,プレ実験として,枠の色を黒,白,灰の3つの条件で行った結果,灰色の枠の色で見本色に近い色を選ぶことが明らかになりました.そこで,どの明るさの灰色で見本色により近い色を選べるのかを検証するため,以下の6つの条件を用意しました.
もし明るさの対比現象が確認されるなら,暗い枠に囲まれた色は枠より明るく見えるためより暗い色を,明るい枠に囲まれた色は枠より暗く見えるため明るい色を選ぼうとする現象が確認できると考えられます.
実験の結果,以下に示すように,枠の色が暗い条件ほど,見本より暗い色を選び,枠の色が明るい条件ほど見本より明るい色を選ぶ傾向にあることが明らかになり,明るさの対比現象が確認されました.
また,以下に示すグラフは見本の色と選んだ色の誤差を表しているのですが,明度が低い条件では見本の色の明度が中程度の色を選ぶ際に誤差が小さく,明度が高い条件では見本の色の明度がやや低い,または高い色を選ぶ際に誤差が小さいことがわかります.このことから,見本の色と近い色を選べる枠の色は異なることが明らかになりました.これは,選びたい色によって適切な色選択インタフェースの背景色が異なる可能性を示しています.
また,この実験は20名に行っていただいたのですが,それぞれの実験参加者によって選ぶ色の傾向はさまざまでした(詳しくは下記のスライドをご覧ください).
これらの結果をもとに,今後は,人の選択する色に合わせた色選択インタフェースの実装や,明るさの対比以外の色選択インタフェースで起こる錯視現象を検証する予定です.
スライド
論文情報
おわりに
HCI研究会でははじめて発表したのですが,鋭いながらも暖かい姿勢で研究についてコメントをしてくださり,ありがたく思いました.また,面白い研究や議論を聞くことができ,充実した2日間となりました.
学会の後には沖縄料理が提供される居酒屋さんで食事をいただくことができました.沖縄料理は名前や見た目から味が想像できないものがそれなりにあり,未知の料理を口に運ぶ瞬間は緊張が走りましたが,美味しかったときはその安心感から喜びもひとしおでした.
また,居酒屋さんへの道中では,夜空にそびえ立つ守礼門を眺めることができました.以前修学旅行の際に首里城を訪れたときは当然日中だったため,その対比が印象的でした.すっかり暗くなった時間も自由に行動していることに修学旅行の頃からの時間の経過を感じた一方で,幼少期から変わらず未だ夜空の黒さと静けさには,解放感と浮き立つ感覚を覚えます.
最後になりますが,発表に至るまで多くの助言やご協力をしてくださった中村先生および中村研究室の皆様には感謝の念でいっぱいです.ありがとうございました.
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