DCC研究会で「イラスト客観視のための部分遮蔽手法の検討」というタイトルで発表してきました(髙橋拓)

      2023/01/05

はじめに

こんにちは。中村研B4の髙橋拓です。

かなり寒いですね。この記事を書いている日には少量ですが埼玉でも雪が降っていました。
自分は冬が一番好きなのですが、悩みが尽きない季節でもあります。今年も乾燥で肌が終わってしまいました。みんなはどう?

さて今回は、そんな乾燥とは無縁そうな(?)石垣島に行ってきたよ!という記事になります。
2019年1月24-25日に石垣市健康福祉センターにて開催された、情報処理学会DCC研究会(デジタルコンテンツクリエーション研究会)に参加し、研究発表をしてきましたのでその報告をさせていただきます。また、今回発表した内容は卒業論文のテーマそのものです。

GN研究会との合同開催だったため、そちらで発表されたM2の今城さん・田島さん・土屋さん、M1の徳久さんと一緒に参加した形となります。先輩方の報告記事も既にあがっていますので、そちらも合わせてどうぞ!

発表の様子

研究概要

(2021/02/24更新)
本研究には最新版があります。
本ページの内容に興味を持っていただけましたら是非ご覧ください。

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今回の研究は、自分の趣味であるイラスト制作に関するとある問題を解決することを目的としています。

その問題というのが、普段ならすぐに気付けるような作画ミスであっても、それを描いている最中や直後には全く気付けないといったものです。

絵を描かれる方ならこの時点で共感してもらえるのではないでしょうか。もう少し具体的に説明しますと、描いた直後には「上手く描けた!」と思っていても、ある程度時間が経過してから見返すと違和感やミスが目立って見えるようになる、もしくは作画中になんとなく違和感を感じていてもどこを直せばよいのかが全然わからなくなってしまう、などといった問題です。

つまり、制作中に同じイラストを見続けていると認知の「慣れ」、もしくは麻痺のような現象が生じてしまい、客観的に見ることが難しくなってしまうのです。インターネットではこの現象をイラストのゲシュタルト崩壊と呼ぶ人もいますね。(認知心理学におけるゲシュタルト崩壊そのものであるかどうかは分かりませんが…)

ちなみに、ここでいう作画ミスとは以下の図1のようなものを考えていただければと思います。本来表現したかったものが上手く描けずに違和感が生じてしまうものや、想定していた雰囲気が出せなかったものなどを総称して作画ミスと呼んでいます。図中に示したものは極端な例ではありますが、こうしたミスに作画中に気付けなくなってしまうということです。

図1

 

この「認知の慣れ」について、美術系の大学生の方を対象に実際に絵を描いてもらう実験を行いました。その結果、実験中全員に慣れが生じていたことが分かりました。また、日常的にもこの現象に悩まされているとのことから、初心者・上級者に関わらず起きてしまう問題であることが分かります。(ちなみに、本研究の調査は一貫して人物キャラクターのイラストを対象に行っているものです。詳しくは論文を参照していただけると幸いです!)

それでは、この慣れが生じた状態で作画ミスに気付くためにはどうすればよいのでしょうか?数日置いて慣れを低減する、人に見て貰う、一度インターネットに投稿してみる…など様々な解決法が考えられます。もちろんそれらの方法が使えるのであればそれで良いのですが、時間がかけられない場面であったり、他人に見られるのはちょっと……といったときには難しいですよね。

また、「イラストを左右反転するとデッサンの狂いにすぐに気付けるようになる」といった手法は有名なのですが、こちらも調査の結果、あくまでも左右のバランスの狂いに特化した手法であることが分かりました。実際、左右のバランスは崩れがちなので便利な手法ではあるんですけどね。自分もよく使います。一方で、調査結果や自分の経験上、より細部の作画ミスであったり、頭身のバランスの狂いなどには気付けないものなのだと感じます。

つまり、より多くのミスに気付くことが可能であり、作画直後に実践できて、他者の存在を必要としない手法があれば便利という訳です。

ここで、先ほどの美術大学の方から興味深いエピソードを教えていただきました。それが、Twitterにイラストを投稿した際に不意打ちのトリミングをされたことで作画ミスに気付けるようになったという体験談でした。(図2)

図2

そこで今回、自身が描いたイラストを、システムによって部分的に遮蔽させればミスに気付けるようになるのではないか?と考え、このイラストの部分遮蔽に関する基礎調査を行いました。

また、このときただ遮蔽するのではなく

  • 視覚の補完を利用することで遮蔽物の向こう側のバランスをおおまかに想像させる(図3)
  • 感覚変化を起こしやすくするため、斜め方向に遮蔽することで拡大縮小などでは再現できない新鮮な視覚情報を作り出す(図4)

これらのことを同時に行いました。

図3

 

図4

この「部分遮蔽手法」でどれだけ作画ミスに気付けるようになるか?といった実験を行ったところ、

  • 慣れの状況下でも新たにいくつかの作画ミスに気付けるようになった
  • 遮蔽されていた範囲内の細かなミスの気付きに特に有効であった
  • 一方で、時間が経過しないと気付けないミスも残ってしまった

といった結果になりました。

完全な慣れの低減は残念ながら達成できなかったため、研究のタイトルにもなっている「イラスト客観視」といった観点では不十分な点もありますが、「慣れの状況下でも作画ミスに気付ける」手法としては今までにない、かつ有効なものになっているのではないかと思います。

また、提示した範囲内の作画ミスや、補完による大まかなバランスの狂いだけではなく、遮蔽範囲内にあった詳細な作画ミスに関する気付きが多く得られたことが本手法の特徴かと思います。これは例えばキャラクターの上半身を遮蔽した場合、遮蔽物を取り去ったときに顔や首にあった作画ミスに関する気付きが増えたといったことです。

一部分を遮蔽し、残された手がかりを元にその先を想像し、もう一度確認するといった流れが本来描きたかったイメージを想起させやすくしたのだろうと考えています。論文内ではイラスト観察時の視線のヒートマップなどからも考察を行っていますので、そちらもご参照下さい。

今後はより効果的な遮蔽方法の調査や、イラストの内容から有効な遮蔽範囲を推定するシステムの実装などを行う予定です。

原稿および発表スライドは以下のようになっています。是非ご確認ください。

文献情報

髙橋 拓, 中村 聡史: イラスト客観視のための部分遮蔽手法の検討, 情報処理学会 研究報告デジタルコンテンツクリエーション(DCC), 2019-DCC-21 (54), 1-8 (2019-01-17), 2188-8868 (2019/01/25).

発表スライド

感想

今回の研究会は卒論の提出と並行して準備をしていたので、今振り返ると色々と忙しかったな~という気もしますが、同時にやることのメリットも結構あったので結果的にはラッキーでした。

研究会本番では練習通りに落ち着いて発表できました。質疑やコメントを下さった皆様、ありがとうございました。今後の参考にさせて頂きます。今のところは院でも引き続きイラストに関するテーマで研究を行う予定です。

また、今回の研究では研究室内部・外部の多くの方にイラストを描いていただき、その作成物を結果の分析や発表に使わせていただきました。研究へのご協力、および素敵なイラストをありがとうございました!

さて、先輩方も書いていますがやっぱり石垣島の観光もしてきました。なんといってもめちゃくちゃに海が綺麗!なかなかできない体験でした。

石垣島周辺の離島にも行きました。中でも竹富島は昔ながらの町並みが広がっていて、なんだか癒されました。卒論の苦しみも報われましたね。黒糖ケーキ美味しかったし。水牛も可愛かったし。

そんな竹富島を歌いながら歩くM2の人たち。先輩たちと行けた今回の石垣島は本当に楽しかったです。

来年度からは現M2の方々がゼミにいないのかと思うとかなり寂しくなります。短い間でしたが、たくさんお世話になりました。本当にありがとうございました。
そして、ご卒業おめでとうございます!これからも遊んでね!!!

 

撮影:徳久さん。海と繋がるサビチ鍾乳洞にて。この後iPodを落としました。緑色のiPod nanoです。見かけた方は高橋までご連絡よろしくお願いします。

それでは、また。

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