はじめに
中村研B4の前島、松井、松田です。
1月23、24日に沖縄県石垣島で開催されたSIGHCI171の参加報告をさせていただきます。個人の発表成果についてはこちら(前島 松井 松田)をご覧ください。
気になった発表
どの発表も興味深い物ばかりでしたが、その中から特に気になったものをいくつか紹介させていただきます。
前島
歩行動作のシミュレーションが空間的視点取得に果たす役割
武藤拓之(大阪大学大学院/ 日本学術振興会)松下戦具(大阪大学大学院)森川和則(大阪大学大学院)
人間の認知過程の一つとして、空間的視点取得という自分とは異なる視点からの見え方を想像するものが存在します。また認知心理学の研究で、身体認知化と呼ばれる、人の認知思考は運動能力のような原初的な身体機能に深く根ざしているという考え方が広まっています。この研究では、空間的視点取得の際に歩行動作のシミュレーションが行われるという仮説を立て、5つの行動実験で仮説の検証を行なっていました。
実験結果としては、取得する視点位置までの移動方向と一致した方向への歩行動作が空間的視点取得を促進する反応一致性効果、空間的視点取得中は手よりも足の方が反応が速くなるという足の優位性が見られていました。
2者間インタラクションにおける痛みに対する生理反応の収束プロセス
村田藍子(早稲田大学理工学術院)亀田達也(東京大学大学院)渡邊克巳(早稲田大学理工学術院)
他者が痛みを受けた際に自分も痛みを感じた神経回路が働く情動感染と呼ばれる現象が存在します。これまでの研究では情動感染の受け手側のプロセスについて研究されてきているのですが、この研究では受け手と送り手の両方を兼ねている場合にどのように作用するのかを調査していました。
実験によって、お互いの様子が確認できる時に生理反応の同期やストレス反応の増幅が起こる、ペアのうちの1人に刺激を与えた場合よりも2人に刺激を与えた場合の方が反応が増幅されることが明らかになっていました。
松井
直線運動と回転運動が共存する場合のベクション効果の分析
古賀宥摩(立命館大学)新井啓介(立命館大学)三浦勇樹(立命館大学)小西晃広(立命館大学)橋口哲志(立命館大学)木村朝子(立命館大学)柴田史久(立命館大学)田村秀行(立命館大学)
自身は動いていないにも関わらず、周囲で別の何かが動くことで自身が動いたように感じることがあります。これをベクション効果と言います。この中でも特に直線運動に関する効果をリニアベクション(LV)、回転運動に関する効果をサーキュラーベクション(CV)と呼び、これらはそれぞれ独立したものとして研究されていたため、組み合わせた際に互いにどのような影響が出るのかというのは検討されていませんでした。
この研究ではLVとCVを組み合わせた視覚刺激を提示することでどのような影響が起きるかを、実験から明らかにしています。実験結果によるとLVとCVはお互いに反比例の関係にあることが分かりました。どちらかを強めることでどちらかが弱まるようです。
隠消現実感技術を用いた実物体の視覚的消去による触力覚への影響
田中美帆(立命館大学)大嶋佳奈(立命館大学)橋口哲志(立命館大学)森尚平(慶應義塾大学)柴田史久(立命館大学)木村朝子(立命館大学)
除去対象に実写の背景画像を重畳描画することで物体が消え去ったように見せる隠消現実感技術によって、実際に持っている物体の長さを見かけのみ変更した場合に触力覚にどのような影響が出るかを調査した研究です。
実験では実物体を視覚的に消去する場合としない場合とを振り比べ、知覚される重さが異なるかどうかを比較しています。実験結果では、物体を短く表示するほど重量をより重く感じることが明らかになりました。これにより視覚的消去が触力学に影響を与えることが明らかになりました。
松田
健常者をセンサノードとして用いたバリア検出の基礎検討
宮田章裕(日本大学)荒木伊織(日本大学)王統順(日本大学)鈴木天詩(日本大学)
段差を越えないと出入りできない店や急斜面など、屋内外に問わず障害者の円滑な移動を妨げるようなバリアと呼ばれる場所がいたるところにあります。このようなバリアとなる場所を把握することは、障害者の移動計画を助けるためにも重要なことと言えます。そこで、この研究では精度の良い広域のバリア情報を収集するために、健常者のセンサデータから障害者にとってバリアとなり得る場所を検出する手法を提案しています。この健常者のセンサデータを有効活用し、障害者を支援するという考え方は、バリアフリーの世界を目指すうえでとても良いアプローチであるように感じました。
ショッピングモールにおけるグループ来訪者にお互いの気持ちの理解を促進するための買い周り行動振り返りの試み
若尾あすか(立命館大学)松村耕平(立命館大学)野間春生(立命館大学)
この研究では、グループでのショッピングモールにおけるよりよい買い周り体験を支援するために、買い周りを振り返る手法を提案しています。買い周りの振り返りとして、一人称視点のウェアラブルカメラによる画像と、買い周り中の自身と同行者の気持ちを買い周り後にお互い照らし合わせながら見ることで、自身だけでなく同行者視点から得られる情報によって新たな発見や理解を促されることがわかりました。「バカップルに使えば行動が落ち着くかも」という意見や「余計なことまで気づいてしまうのでは?」といった意見など、色々と考察できる部分がある面白い研究でした。
感想
HCIの準備期間と卒業論文の制作期間が丸かぶりしていたため、2ヶ月近くずっと研究のことを考えて過ごしていました。実験結果の分析が甘かったり、実験人数が足りなかったりでバタバタしましたが、発表当日まで続いた発表練習のおかげで3人とも落ち着いて発表ができたと思います。発表練習に付き合ってくれたみなさんありがとうございました。
他の方々の研究もとても興味深かったので、今後の研究において参考にさせていただきたいと思います。