はじめに
中村研究室M1の木下裕一朗です.2024年7月22~23日に北海道大学で開催された第209回HCI研究会にて,産業技術総合研究所で取り組んでいた技術研修の成果である「動画共有サービス上の興味を引く時刻同期コメントを用いた音楽動画探索システムに関する検討」を発表しましたので,その報告をさせていただきます.
研究概要
「いつもここで鳥肌立つのよ」「今の盛り上がるトコ好き」「ここのハモリ不思議なかんじで好き」
このようなコメントを見て,実際にそのコメントが言及している音楽動画のシーンを視聴したいと思わないでしょうか?
本研究は,時刻同期コメント(動画内の時刻に同期して投稿されたコメント)の中に人の興味を引くようなコメントが存在すると考え,コメントをきっかけとして音楽動画を視聴するというアプローチを提案し,そのアプローチの有用性を検証しました.
背景と目的
音楽コンテンツの数が膨大になったことで,人は聴きたい楽曲を見つける際に検索を利用しています.これまで,音楽検索の支援手法は様々提案されてきましたが,本研究では多様な音楽動画と出会いたいと考えているユーザを対象に,そのユーザが普段聴かないタイプの音楽と出会えるように支援することを目的としています.
本研究は,普段聴かないタイプの楽曲を聴くきっかけとして,音楽動画に投稿された時刻同期コメントに着目しました.時刻同期コメントには動画のシーンに応じたコメントが多く,ユーザにそのシーンを視聴したいと思わせるものが存在すると我々は考えました.
提案アプローチと評価実験
そこで本研究は,時刻同期コメントをきっかけとして音楽動画を視聴するというアプローチを提案しました.具体的には,ユーザに時刻同期コメントを提示し,ユーザが気になるコメントを選んだ際に,そのコメントの投稿部分から視聴可能なリンクを作成して音楽動画を閲覧できるようにしました.このアプローチによって,動画のすべてを見なくとも,コメントの投稿シーンだけを見て自分の好みに合ったかどうか判断でき,次々と音楽動画を探索できるようになると考えました.
本研究では,
- 人の興味を引くコメントにはどのような特徴があるか?
- 提案アプローチによって,普段視聴しないジャンルであり,かつ好みに合う音楽動画をどの程度発見できるか?
という2つのリサーチクエスチョンに答えるため,提案アプローチに基づく実験用のシステムを実装し,研究室内の学生20名に10日間システムを使用してもらいました.なお,実験では国立情報学研究所が提供している「ニコニコデータセット」に含まれる動画のメタデータとコメントデータを利用しました.
※今回はニコニコ動画を利用していたため,上記ビデオ内では動画コンテンツが非表示になっていますが,実験期間中は動画コンテンツが視聴可能な状態でした
実験結果と展望
実験参加者が興味を引かれて選んだコメントには,全体としてポジティブなコメントが多いことがわかりました.例えば,「過去を優しく想い起こさせてくれる神曲」「2番サビの歌詞本当に好きです」などがありました.また,独特な表現を含むコメントも選ばれており,「なんという疾走感のあるヤキイモ」「これ聞きながらドライブすると自然とアクセルと踏んでしまう・・」といったコメントがみられました.
各実験参加者が視聴した動画について,その実験参加者が普段聴かないジャンルでかつ高評価をした動画の割合のマクロ平均を算出した結果,平均38.4%であることがわかりました.この値が高いかどうかは,今後動画をランダムで提示した場合などと比較することで検証する予定です.また,普段聴かないジャンルの動画を視聴したときには,平均60.3%の割合で高評価をしていることがわかりました.普段聴かないものであるにも関わらず,60.3%も高評価をしていたというのは高い値であると考えています.
今回は1つのコメントを1人の実験参加者のみにしか提示していなかったため,今後は同一コメントを他の実験参加者に提示したときの評価の一致度合いを調べることで,人によって興味を引かれるコメントがどの程度異なるか明らかにする予定です.また,今回は実験参加者が普段聴かないタイプの楽曲について,ジャンルに着目して分析を行いましたが,今後は曲調やクリエータにも着目して提案アプローチの有用性をさらに検証する予定です.
発表スライドと書誌情報
おわりに
HCI研究会に参加するのは久しぶりでしたが,今回も面白い発表を多く聞くことができて楽しかったです.また,自分の研究に対して質問・アドバイスをいただくことができて良かったです.いただいたフィードバックを今後の研究に役立てたいと思います.
学会の昼休憩や終わった後に,スープカレーや味噌ラーメンを食べられたのも非常に良かったです.私は札幌出身なのですが,今回久しぶりに帰ってみて東京に負けないほど札幌が暑くてびっくりしました.
最後になりますが,論文執筆や発表に関して多くのアドバイスをしてくださった,共著者の産総研の皆様と中村聡史先生に感謝申し上げます.ありがとうございました.