第189回HCI研究会で「無目的なスマートフォン起動タイミングの検出手法の検討」というタイトルで発表してきました(桑原樹蘭)

投稿者: | 2020年12月28日

はじめに

中村研M1桑原樹蘭です.寒くてお布団から出るのがしんどい毎日を送っています.

後回しに後回しを重ねてようやく書き始めたHCI研究会の発表報告です.(半年経過)

 

研究内容

世の中には人による回答を必要とするタスクが多く存在します.

例えば,2つの手書き文字のどちらがより美しいか,崩壊した建物やがれきの詳しい分類などは,コンピュータで判断するのが難しくひとに作業をお願いするタスクにあたり,こうしたマイクロタスクに関する研究は色々なところで取り組まれています.

今現在,こういったタスクに答える機会は十分にあるとはいえず,この機会を増やすことは重要であると考えていますが,タスクを頻繁に提示されると,ユーザの邪魔になってしまいます.

そこで我々は,スマートフォンの起動タイミングに着目しました.

スマートフォンユーザの多くは常にスマートフォンを持ち歩き,頻繁に利用しています.また,ひとがスマートフォンを無意識に触っている時間は思った以上に多く,目的なく無意識に手に取るタイミングがあります.この特に何かするわけではないけれどスマートフォンを起動するというタイミングを検知し,タスクを提示することができれば,ユーザの負担にならずにタスクを行ってもらえるのではないか,と考えました.

ということで,本研究の目的は,スマートフォンを手に取る際のタスクを表示するタイミングの検知になります.ただ,日常的に持ち歩いる様子を監視して,「今,無目的にスマートフォンを起動した!」と判断することはできないため,そうしたタイミングをどう実験的に収集するかについて色々と工夫しました.

 

実験

実験では,スマートフォンを用いた目的ありタスクと目的なしタスクをアナログ(計算)タスクとを誘導しつつ交互に連続で行ってもらうようにしました.

実験では,目的がある場合の方がスマートフォンを手に取る動きが遅くなるという仮説をたて,目的ありタスクのセンサ情報の取得,目的ありとなしの場合の挙動の比較を目的として行いました.

 

実験デザイン

実際にスマートフォンを無意識に起動する様子を取得するには日常的にユーザの状況を監視しつつログとして収集することが理想になります.しかし取り続けたログデータに後からラベル付けすることは現実的ではありません.

そこで実験で記録できる形に設計する必要がありました.

目的なくスマートフォンを手に取る動きを再現するために,PCで30分の動画を流し随時タスクの指示を行いました.

タスクの内容は以下のようになっています.目的のない想定のタスクには,日常で無意識に行われる動作を取り入れるようにしました.

下の図のオレンジが目的あり,青が目的なしを想定したタスクです.

実験①

実験は大学生6人を対象とし,タスクを行う間のスマートフォンの加速度センサ情報を25Hzで記録しました.

動画で音を出すため,実験協力者には実験中ノイズキャンセリングヘッドホンを装着してもらい,スマートフォンを使わないタスク中は腕などがぶつからない場所に置くように指示しました.

結果①

センサデータを,スマートフォンを手に取った時点を含んだグラフ50フレーム分を抜き出して比較した結果,動きがあってから挙動が起きるまでの時間は仮説の通り目的ありのほうが短い傾向がみられるものがありました.

しかし,大きな差が見られないものや挙動の位置が分かりづらいデータがありました.

これは目的なしタスクの設計が不適切だったと考えられたため,タスクを再設計して追実験を行いました.

実験②

実験②では,目的なしタスクをより無自覚の動作に近い動きの物に再設計してもう1度実験を行いました.

具体的には目的のない場合のタスクでは,タスクの前にスマートフォンを持つという動作をするフェイズを入れるようにしました.タスク内容以外は実験①と変更点はありません.

結果②

実験②では①に比べ,より自然な無目的な動作を取れました.

結果①と同じようにグラフを抜き出して比較してみたところ,①と比べて目的の有無で差が大きく出ていました.結果,全体的に目的ありの方が挙動が起きるまでの時間が早くなっていました

また,フレーム間でユークリッド距離を算出し,実験協力者ごとに閾値を設定して判定も行いました.

閾値aはこれを超えたら動いている,と判定するもので,4フレーム連続して超えていた場合をタスク開始時点とみなしました.

閾値bはこれを超えたら大きな動き(意思のある行動)があったと判定するもので,タスク開始時から50フレーム内に現れた場合,目的ありタスクを行っているとみなしました.

これらの閾値による判定の結果,抜き出せたタスクデータのうち,75%が正解していました.

考察

ユークリッド距離を用いた判定では,条件を追加することで正解数を増やせる可能性があると思われます.

結果として,仮説通り目的ありの場合の挙動が早くなる傾向があるようにみえました.

しかし,取得できたデータが少ないため,データ数を増やし,機械学習で使える形にして判定を行う必要があると思われます.

 

おわりに

初めてのオンライン発表でトラブルがないか心配でしたが無事に終わってよかったです.

来年は修論も就活も頑張らないとです.早くコロナ収まるといいなー(˘ω˘)

 

発表スライドと原稿

桑原 樹蘭, 中村 聡史. 無目的なスマートフォン起動タイミングの検出手法の検討, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2020-HCI-187, No.3, pp.1-7, 2020.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください