中村研究室B4の牧,白鳥です.
2016年12月3~4日にかけて東京大学 駒場キャンパス 21KOMCEEにて「HAIシンポジウム2016」に参加してきましたので報告したいと思います(ポスター発表もそれぞれ行ってきましたが,そちらについては別途個別に報告させていただきます).
さて,HAIシンポジウム2016では,人とエージェントとの対話に関する様々な研究発表および議論がありました.その中から気になったいくつかの研究を紹介したいと思います.
- 「⼈は知的なエージェントよりも強引なエージェントの意思決定に従う」(⾼橋和之:岐阜大)
この研究は,ロボットがどうしたらリーダーになれるのかを明らかにした研究となっています.意思決定をロボットに委ねている場合,ロボットと人の意見が対立してしまうと飛行機墜落のような大事故が起きてしまう可能性があり,ロボットのリーダーシップを考えるのは大事ということでした.実験としては,知性(人より賢いか否か)の高低と固執性(人の意見に合わせるか否か)の高低が,人がロボットに従う度合いに与える影響を調査していました.その結果はタイトルの通り,⼈は知的なエージェントよりも強引なエージェントの意思決定に従うということでした.
これは,人はグイグイ来られると,たとえ相手がロボットだとしても譲ってしまうということなのだと思います.最近のアメリカ大統領選を思わせるような結果で面白いなと感じました.
- 「言葉足らずの発話はなぜ人の心を引きつけるのか?」(⻄脇裕作:豊橋技術科学大)
こちらは,先ほどの研究と打って変わって,ロボットの弱さが人の心を引きつけるということに注目した研究です.実験としては,あえて言葉足らずのロボットを実装して,人との対話インタラクションの様子を観察するというものでした.その結果,ロボットの「シャツなどを売るんだよ」に対して,人が「うんうん。オリンピックの?」と返しており,人の新しい解釈を生み出すような対話や,他にも人から能動的に歩み寄るような対話が見られたということでした.
この研究の,あえて弱いものを作るという着眼点は面白く,そういった対象が相手だからこそ人の良い部分が引き出されるように思いました.ただ,これは人(赤ちゃん)相手でも同じですが,瞬間的には人は歩み寄るかもしれないけれど,これが長い間続けばイライラしてくるかもしれないことを考えると,この言葉足らずの発話は適切なタイミングを考えるのも重要だと感じました.
- 「選択式対話を⽤いた⾼齢者向け御⽤聞きエージェントの開発」(冨永善視:TIS株式会社)
この研究では,一人暮らしの高齢者にどうやって強い繋がりを持たせるのかという問題をエージェントによって解決しようとする研究です.この研究では,エージェントを不特定多数の人で操作することによって操作する側としては多数でやってることによって負担が少なく,高齢者にとってはひとりのエージェントとコミュニケーションしているので強いつながりを感じることができることを可能にしています.
この研究は,エージェントが不特定多数の人で操作されているのに高齢者はひとりのエージェントとして捉えるというところに面白さを感じました.今回は短期的な実験しか行ってませんしたが,長期的な実験を行う際に不特定多数の人によって操作されているエージェントを高齢者は一つのひとりの存在として扱うのかどうかとても気になりました.
- 「⼦どもの⾒かた・⼤⼈の⾒かた ―幼児・⼤学⽣・⾼齢者を対象とした Agent 知覚 の⽣涯発達的検討」(伴碧:同志社大学)
この研究は,子供や大人はエージェントや神様,お化けや人をどの様に捉えているのかを調査した研究です.その結果,子供はお化け以外の神様やエージェント,大人を同じ同じような存在として認識していることを明らかにしています.また,大人や高齢者は,エージェントを神様と同じような存在として認識していることも明らかにしました.
この研究は,子供がお化け以外のものを同じような存在として認識しているというところ,さらに大人でもエージェントと神様を同じようなものとして認識していることが驚きました.大人でもエージェントを神様と同じものということはエージェントが全知全能であり間違いのないものとして認識していることが面白いと感じました.
今回は2人ともポスター発表という形で参加しましたが,様々な方と議論し貴重な意見を得ることができました.また,普段あまり踏み込まない分野であるため,他の方の研究発表も新しい知見が得られるものばかりで面白かったです.懇親会で他大の方とも交流して打ち解けることができたので,またどこかでお会いすることがあれば,いろいろお話できたらなと思います.