平均手書きに関する研究

   

平均手書きに関する研究の経緯はどのようなものかを質問される機会が増えてきたので、記事を作成。

平均手書きに関する研究は、先端メディアサイエンス学科に着任して同僚になった小松孝徳先生の「ひらがなはカタカナよりも丸っこいよね?」:文字の数式表現および曲率の利用可能性での共同研究がスタート。この研究では、オノマトペをひらがな表記したときと、カタカナ表記したときとでは印象が異なるという知見(比較したものにオノマトペロリなど)について、それを曲率で表現できないかと模索したもの。同じく同僚になった鈴木正明先生が数学を専門とされているということもあって、文字を数式化し、そこから曲率を求めるという方法でそのひらがなとカタカナの関係を数値化することで、実際にひらがなはカタカナより丸っこいことなどを明らかにしていました。

この数式化は、ざっくり説明するとフーリエ級数展開を用いることによって手書きの各ストロークをsinとcosの式で表現するというもので、こちらでどんな感じになるかを体験できます

その研究の過程で、「手書きを数式化できるのであれば演算できるのでは?」「手書きを数式化して足して2で割れば平均的な手書きを求めることができるのでは?」とアイディアが広がり、そこから平均の手書きってなんだろう?という探究が始まりました。

その成果のひとつが、「平均文字は美しい」で、ひとの手書きは毎回ブレがあるからそのブレを平均化するときれいになるのでは? 様々なひとの手書きは多くの人の理想とする手書きからそれぞれブレているため、平均化すると理想的なもの、つまりきれいなものになるのでは? などといったことを検証していきました。またその結果、

  • ひとのオリジナルの手書きより、その手書きを平均化したものが高く評価される
  • 各人の手書きより、全員の手書きを平均化したものが高く評価される
  • 自身の手書きに自信がなくても、みんな思った以上に自分の手書きが好き

などを明らかにしていきました。この成果は、「ひらがなの平均手書き文字は綺麗」として論文誌にも採録されました。

この研究はそこから色々と発展し、基礎的な面では図形を平均化してもきれいになり、非利き手で描いた平均は利き手で描いた平均と似ること、利き手で手書きした文字と非利き手で手書きした文字の平均は類似すること、無作為に抽出した100人ずつの手書き文字の平均は類似することなどを明らかにしてきました。

またその手書きを数式化できるということの応用として、描き直しを自動平均化することによる手書きを支援する研究お手本と自動融合することで手書き練習のモチベーションを上げる研究これまでの手書きと勝手に平均化することで手書きノートをより良くする研究平均化できれいになった手書きをもとに履歴書をロボットに量産してもらう研究手書きの加重平均というブレを導入することでひとを騙すような自然な手書きを実現する研究手書きにさらにアニメーションのための数式を付与することで手書き表現を豊かにする研究など様々なものに派生していきました。

さらに、この研究は太さの変化も同じようにフーリエ変換で数式化できることにも着目し、手書きだけではなくフォントによる文字も数式化するという研究につながりました。

フォントの数式化の応用として、印象空間から新しい文字表現をデザイン可能にしたりカラオケなどの歌詞の文字表現を印象に連動して変化させたり文字表現により選択を誘導する研究など、様々な広がりが生まれました。

さらに、手書きも数式化できているのでフォントと手書きとの間の平均化も可能になり、コミックのセリフを自身の手書きと融合することで親密度を上げる研究手書きのメッセージ作成に抵抗があることに着目してフォントと融合させつつ手書きの良さも表現可能なメッセージ作成システムなど、様々な応用が生まれています。

他にも、文字表現の非流暢性が記憶容易性を向上させることから、記憶時にあえて手書きを読みにくくする研究などの研究の発展や、手書きを残し、表現可能であることに着目して、ALSの患者さま向けの手書きを記憶・再現可能なシステムの開発なども行っています。

また、これからさらに明らかにしたいこととして、「日本語の文字を書く人の平均的な手書き文字はどのようなものか?」「平均的な手書き文字があるとしたとき、それは一体何なのか?」「手書きは年をとるに連れてどう変化していくのか?」「左利きと右利きとで手書きに違いはあるのか、また左利きの人にとって最適な書き順とはなにか?」なども明らかにしていきたいと思っています。

こうした研究にご興味がありましたら連絡頂けますと幸いです。

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