第186回HCI研究会で「ひとを騙す手書き文字自動生成手法の提案と実装」というタイトルで発表してきました(田村洸希)

      2023/01/05

早稲田大学情報理工学科の田村洸希です。中村先生とともに第186回HCI研究会で「ひとを騙す手書き文字自動生成手法の提案と実装」というタイトルで発表してきました!

この研究は、以前から中村研究室で研究されていた「手書き文字の平均化」の手法を用いて、「ひとっぽい手書き文字を自動生成する」という研究です。

どうしてこのような研究を行ったのか、その経緯は以下の通りです。

研究の経緯・目的

『全自動手書きレポートマシンを作ってみた!』という動画を投稿した

私はもともと研究とは関係なく、2019年9月に趣味でニコニコ動画に以下の動画を投稿しました。

私の所属する大学では、とある授業で「手書き指定のレポート」が課されることがあるのですが、普段PCしか使わず、手書きでノートをとることがほとんどない人にとっては、2000字以上のレポートを手書きで書くことは苦痛でしかありませんでした...。

そこで、どうにかこの手書きレポートを手で書かずに済む方法はないかと考えた結果...

「機械に手書きレポートを書かせればいいんだ。」

そう思い立ち、夏休みに自分の手書き文字を機械に書かせるシステムを作成しました。(図1)

自分の筆跡でないと意味がないので、2400文字各3パターンほどの手書きを登録して、それらの文字形状をそれぞれ平均化することで、自分の手書き文字を美化した文字を機械に書かせることにしました。

図1. 手書き機械システム

しかし、実際に機械に文字を書かせてみると、「同一の文字が全く同じ形状で書かれてしまう」という問題点が浮上しました。ひとが書く文章には形状にゆらぎが生じるはずなので、これでは機械が書いたとバレてしまいます。

そこで、動画を見てくださった中村先生から、

「この問題に着目して、『ひとを騙すことのできるほどに、ひとの手書きを再現することができるか』をテーマに研究してみるのはどうか」というご提案をいただき、私自身もそれに非常に興味があったので、最終的に、

「ひとを騙すことのできる手書き自動生成手法の提案と実装」

というタイトルで研究にしてくださり、論文を書いて、研究会で発表させていただくことになりました。

提案手法と実験結果

提案手法

文字にゆらぎをつける原始的な手法として「同一の文字であらかじめ複数パターンの形状を登録しておく」という方法が考えられるが、この手法では登録に時間がかかり過ぎてしまう上に登録した文字の範囲でしかゆらぎをつけることはできない。

そこで私たちは、2、3個の少ない手書き文字を負の値から1を超える値の範囲内で加重平均化することで、新たな手書き文字を生成する手法を提案した。加重平均化の範囲を適度に拡張すると、ゆらぎが大きくなり、“よりひとが書いたような”変化をつけられることがわかった。

以下のアニメーションは、3つの文字のそれぞれ重みを負の値から1を超える値まで許容した時に、重みの値を直線的に変化させた時に生成される文字を示したものである。

実験結果

実際にこの手法を用いて新たに生成した文字が「ひとが実際に書いたもの」と区別がつかなければいいため、簡単な二択のWebシステムを作成して「どちらが人が実際に書いたものであるか」を判別させる実験を行った。(実験に用いた文字は「ひ・ら・が・な・カ・ナ・名・漢・字」の9種類)

ざっくりまとめると、「平均して59.1%の割合でひとの手書きを判定できた」という結果が得られた。50%であればほとんど判別することはできないということであるので、同じ文字を連続して並べるという厳しい条件の中での判別であったことを考慮すると、かなりの割合で騙すことができたのではないかと考えられる。

今後の課題と展望

研究の大きな目的は「ひとを騙すことのできる手書きを機械的に再現する」というものだったが、「ひとの手書き」と感じる要因には以下のようなものが考えられる。

今回の研究では、上の図の2番目の要因にのみ着目し「個々の文字にひとらしいゆらぎをつける」ことを実現した。しかし、他にも文章全体を見た時のバランスなどについても、ひとらしいものを機械的に再現できるのではないかと考えている。

さらにこのような課題をクリアした上で、実際に機械にひとが書いたような手書きの文章を書かせることができれば、手書きが積極的に要求される場面で人の代わりに大いに役に立つのではないかと考えている。むろん機械に書かせる場合には新たにハードウェア的問題点が浮上するが、その点についても今後考えていきたい。

文献情報

田村 洸希, 中村 聡史. ひとを騙す手書き自動生成手法の提案と実装, 情報処理学会 研究会報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2020-HCI-186, No.3, pp.1 - 8, 2020.

また,発表スライドはこちらです.

発表してきた感想

中村研究室の先輩方(高橋さん、細谷さん、古市さん、佐々木さん)とともに、沖縄県石垣島に行って発表してきました!

初めての研究発表であり、また、初めて会う先輩方と一緒の旅行ということで、二重の意味で緊張していましたが、皆さん親切に接してくださり、色々な観光スポットにも連れて行ってくださったのでとても楽しい4日間を過ごせました。改めてありがとうございました。

また、研究発表は中村先生が何度も指導してくださったおかげで、無事に発表できました。時間がない中、自分の発表練習にお付き合いくださり本当に感謝しています。ありがとうございました。

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