第42回DCC研究会にて「胸部取付カメラを用いた対面型トレーディングカードゲームの自動譜面生成手法」というタイトルで発表してきました(新嶌道大)

投稿者: | 2026年3月13日

はじめに

こんにちは、中村研究室B4の新嶌道大です。

2026年1月22日〜23日沖縄県宮古島市中央公民館未来創造センターで開催された第42回DCC(デジタルコンテンツクリエーション)研究会にて、「胸部取付カメラを用いた対面型トレーディングカードゲームの自動譜面生成手法」というタイトルで発表してきましたので、報告させていただきます。

研究概要

背景

トレーディングカードゲーム(TCG)では、対戦後に行われる「感想戦」が上達のための重要な時間とされています。どの場面でどのような判断をし、なぜその選択に至ったのかをコミュニケーションを取りながら振り返ることで、プレイヤーは自分の思考や癖を理解できます。しかし実際の感想戦では,対戦中の細かな状況を正確に思い出すことが難しく、印象に残った一部の場面だけが話題になりがちです。特にTCGでは手札が非公開情報であるため、「そのとき何を持っていたのか」が曖昧なまま議論が進み、十分な振り返りができないという課題があります。

この問題を解決するために、本研究ではTCGの対戦を客観的に振り返るための記録手法に着目しました。具体的には、プレイヤの胸部に装着したカメラ映像から、対戦中の手札や盤面の変化を自動的に検出し、対戦の流れを時系列で整理した「対戦譜面」を生成することを目的としています。これにより、対戦後に「何が起きていたのか」を視覚的に共有でき、記憶や印象に頼らない感想戦を可能にすることを目指しました。

手法

対戦の記録にプレイヤの胸部に装着したカメラ映像を用います。胸部カメラは、対戦中のプレイヤ視点を取得でき、上からの固定カメラではとらえられない手札も含めて記録できるという特徴があります。また、特別な撮影環境を必要とせず、実際の対戦環境に導入しやすい点も利点です。

取得した胸部カメラ映像に対して、物体検出モデルであるYOLOを用い、手札および盤面に配置されたカードを自動的に検出します。YOLOは画像内の複数の物体を同時に高速に検出できるモデルであり、対戦中の映像を連続的に解析する用途に適しています。

これらの検出結果をもとに、対戦中に発生した各イベントに対応して、その時点の手札と盤面の状態を時系列順に整理した「対戦譜面」を生成します。対戦譜面とは、どのターンでどのカードが手札に加わり、どのカードが使用され、盤面がどのように変化したのかを一覧できる形式で可視化したものです。これにより、対戦全体の流れを俯瞰的に把握できるようになり、感想戦において具体的な局面を参照しながら振り返りを行うことが可能となります。

 

評価実験

今回の実験では感想戦の実施や学習効果の検証は行わず、提案システムの精度のみを評価しました。評価は、①YOLOによるカード検出精度、②生成された譜面の再現精度の二点から行いました。実験では、著者と協力者5名がそれぞれ3試合ずつ対戦し、計15試合分の映像を用いました。両プレイヤの胸部にスマートフォンを装着し、著者視点と協力者視点の2視点を同時に記録しました。

カード検出精度の評価では、両視点の動画からランダムに250枚ずつ、計500枚のフレームを抽出し、人手で作成した正解データとYOLOの検出結果を比較しました。その結果、胸部カメラ映像においても、譜面生成に必要なカード情報を取得できる水準の検出精度が確認されました。一方で、盤面のカードはカメラから遠く小さく写ることや、手や手札による遮蔽の影響を受けるため、手札よりも検出精度が低い傾向が見られました。

譜面の精度評価では、自動生成譜面と人手で作成した正解譜面をイベント単位で比較しました。その結果、盤面イベントのうちエネルギー付与の正解率は0.76でした。手札関連イベントでは、著者視点と協力者視点の間に精度差が見られました。また、手札使用イベントではカードの種類による精度差が確認され、山札を参照するグッズや手札を入れ替えるサポートカードなど、特殊な効果を持つカードで誤りが増加する傾向がありました。

以上より、胸部カメラという限定的な視点であっても、主要な対戦イベントの多くは自動的に再構成可能であることが示されました。一方で、遮蔽や視野制限、カード効果の複雑さが精度に影響を与えることも明らかとなりました。

考察

手札と盤面で検出精度に差が生じました。盤面のカードはカメラから距離があり小さく写るうえ、対戦中は手や手札による遮蔽が頻繁に発生します。そのため、カード全体が明瞭に写らない場面が多く、検出精度が低下したと考えられます。一方、手札は胸部カメラに比較的近い位置で操作されるため、カードが大きく写りやすく、特徴を捉えやすいです。この視野距離と遮蔽頻度の違いが、精度差の主な要因であると考えられます。

著者視点と協力者視点の間に精度差が見られた要因として、胸部カメラへの慣れの違いが考えられます。著者は研究過程で継続的に装着して対戦を行っていたのに対し、協力者は今回が初装着でした。そのため、カードの扱い方や身体の向きに差が生じ、映像の安定性に影響した可能性があります。胸部カメラは装着者の動作特性に影響を受けやすいことから、一定の習熟や運用上の工夫が精度向上に重要であると考えられます。

 

今後の展望

本実験ではシステムの精度のみを検証しましたが、生成された譜面が感想戦の中でどのように活用されるかは検討していません。今後は、実際の対戦後に譜面を提示し、プレイヤ同士の振り返りがどのように変化するかを評価します。例えば、従来は議論されにくかった細かな判断や中盤の選択にまで言及が広がるか、記憶に依存していた振り返りが客観的な記録に基づく議論へと変化するかといった点を検証することで、譜面の実用的価値を明らかにできると考えられます。

また他のTCGへの応用と、胸部カメラを用いた対戦記録基盤への発展可能性があります。本研究ではポケモンカードゲームを対象としましたが、カードの配置や手札操作という基本構造は多くのTCGに共通しています。そのため、検出対象や学習データを調整することで、他TCGへの展開も可能であると考えられます。さらに、胸部カメラという実環境に導入しやすい記録方式を基盤として発展させることで、特定のゲームに依存しない汎用的な対戦記録システムへと拡張できる可能性があります。

発表スライドと書誌情報

新嶌 道大, 中村 聡史. 胸部取付カメラを用いた対面型トレーディングカードゲームの自動譜面生成手法, 情報処理学会 研究報告デジタルコンテンツクリエーション(DCC), Vol.2026-DCC-42, No.33, pp.1-8, 2026.

https://dl.nkmr-lab.org/papers/641

おわりに

初めての宮古島めっちゃ楽しかったです!マンゴージュース最高!

最後にはなりますが、原稿執筆や発表練習など様々ご指導いただいた中村先生をはじめ、実験に参加してくれた方、また研究に関わってくださったすべての方に感謝いたします。
ありがとうございました!

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