はじめに
こんにちは!中村研究室M1の福井雅弘です。
今回2024年1月23&24日に開催されたCN124@奄美大島にて,DebaTube:競技ディベートの試合動画探索を支援する 大局的な反論構造可視化手法の提案というタイトルの論文を発表しました。
まずは発表した論文の内容について紹介します。
DebaTubeとは
DebaTubeは競技ディベートの試合動画探索を反論の可視化で支援する、全く新しい動画探索システムです。競技ディベートとは、2~3名で編成される肯定側チームと否定側チームが「タバコは禁止するべきか?」「消費税は廃止するべきか?」といった様々な論題に対しターン制で論戦を繰り広げる競技です。
こちらのリンクで公開しているので,ぜひ使ってみてください!
モチベーション
前回の研究では、定性的な評価に留まりがちな競技ディベートにおける対話の質を、反論構造のモデルというシンプルかつ定量的な指標によって評価できることを示しました。しかし、これまでの研究では「なぜこの試合では議論が深まったのか」「逆に、議論が上手くいかなかった試合では、どのシーンに原因がありそうか」といった、試合の特徴を人が理解しやすい形で提示する手法については十分に検討されていませんでした。
そこで本研究では、インターネット上に数多く公開されている競技ディベートの試合動画を題材に、競技ディベート経験者が試合の特徴を直感的に読み取れる反論構造の可視化システムを提案します。本システムにより、多様な試合事例から反論のアンチパターンや優れた議論の特徴を発見する手がかりを提供することを目指します。
可視化事例
各試合の反論構造は、下図のような形で可視化しています。各要素について説明すると、ブロックのノードが主張や理由付けなどの議論の最初単位を、直線が反論関係を表しています。また、赤が肯定側が発言したもの、青が否定側が発言したものを示しています。
本システムでは、このディベートの可視化を下図のように一度に見れるようにすることで、複数の試合の特徴を俯瞰的に把握できるようにしています。
ユースケース
では、このシステムは具体的にどのような場面で役立つのでしょうか?
例えば、味方に反論が集中した際にどのようにカバーするか、味方と反論先のバランスが取れているかといった試合の展開を分析し、参考になる動画を探したい状況が考えられます。本システムの反論構造の可視化により、試合の流れを素早く俯瞰することが可能になります。
従来のYouTubeやDebate Motions等のサイトでも試合の検索は行えますが、これらのサイトでは論題や大会名といった試合の展開とは直接関係のない情報をもとに検索するしかありません。そのため、試合の流れを考慮した上で、参考になる動画を効率的に見つけることは困難でした。この点が、本システムと従来の動画検索システムとの大きな違いとなります。
実験と結果
競技ディベート経験者5名を対象に、システムを使って様々な利用シーンで最適な試合動画を選んでもらう実験を行いました。結果として、参考になる動画を探す際に異なる動画の同じシーンを見比べる傾向や、複数の参加者が、同じ動画を異なる着眼点から優れた試合として選択する場合があることが明らかになりました。今後更に実験の規模を拡大し、より幅広い利用方法を調べたいと思います。
結果のさらなる詳細は、ぜひ論文をご参照ください!
おわりに
本システムはWebアプリとして実装しており、じつは実験設計や参加者集めと同じくらい苦労していたのですが、この記事ではあえてその内容には触れていません。本研究の主眼は実装上の工夫ではなく、あくまで可視化システムのデザインやそれを実証する手法だからです。
自分がどれだけ大変だったかなどの事情にとらわれず、受け手の方にちゃんと研究の根幹が伝わるよう工夫を徹底し、目的意識をはっきりさせる力を成長させられたと思います!
最後になりますが、粘り強く議論を交わしてくださった中村先生、素晴らしい学会を開いてくださった皆様、そして研究室のみなさん、本当にありがとうございました!