インタラクション2025にて「動画共有サービス上の時刻同期コメントを視聴のきっかけに用いた音楽動画探索システムに関する検討」を発表しました(木下裕一朗)

投稿者: | 2025年3月10日

はじめに

中村聡史研究室M1の木下です.2025年3月2日から4日にかけて開催されたインタラクション2025にて,動画共有サービス上の時刻同期コメントを視聴のきっかけに用いた音楽動画探索システムに関する検討を発表しましたので,その報告をさせていただきます.こちらは,産業技術総合研究所での技術研修で取り組んだ研究です.

研究概要

目的・提案アプローチ

本研究は,ユーザが普段聴かないタイプの楽曲の中から,新たに好みに合ったものを見つけられるように支援することを目指しています.そこで我々は,音楽動画の時刻に同期して投稿される時刻同期コメントに着目しました.時刻同期コメントの中には,例えば「なんという疾走感のあるヤキイモ」「すの発音は泣くほど好き」と言った個性的なコメントがあります.こうしたコメントを見ると,そのコメントが指している音楽動画のシーンを見てみたいと思わないでしょうか?

そこで我々は,時刻同期コメントをきっかけとして音楽動画を視聴するというアプローチを提案しました.また,時刻同期コメントを選択すると,その投稿シーンの少し前から音楽動画を視聴できるシステムを実装しました.こちらからシステムを体験できます.

時刻同期コメントには音楽動画のジャンルを想起させないコメントも多く含まれるため,普段聴かないタイプの音楽動画の中から,好みに合うものを見つけるためのきっかけとして有用であると考えました.また,コメントの投稿シーンから再生可能とすることで,動画を最初から最後まで視聴しなくとも,その音楽動画が自身の好みに合っているかどうか判断しやすくなると考えました.

実験1

本研究では,

  • RQ1: 人の興味を引くコメントにはどのような特徴があるか?
  • RQ2: 提案アプローチによって,普段視聴しないジャンルであり,かつ好みに合う音楽動画をどの程度発見できるか?

の2つのリサーチクエスチョンについて検証するため,上記のシステムを20名の実験参加者に10日間使用してもらいました.実験で使用した音楽動画やそれに投稿されたコメントは,国立情報学研究所が提供しているニコニコデータセットから取得しました.

実験の結果,RQ1については,「2番サビの歌詞本当に好きです」「過去を優しく想い起こさせてくれる神曲」と言ったような,ポジティブなコメントが人の興味を引く傾向があることがわかりました.また,そうしたポジティブなコメントだけでなく,「天使と悪魔の小説みたいな雰囲気」「これ聞きながらドライブすると自然とアクセルと踏んでしまう・・」と言った個性的なコメントも一部選ばれていたことがわかりました.

RQ2については,提案アプローチにより,38.4%の割合で実験参加者が普段聴かないジャンルでかつ好みの音楽動画に出会えたことが明らかになりました(視聴された音楽動画全体を100とした時の割合).また,普段聴かないジャンルの音楽動画に出会ったとき,60.3%の確率で好みに合っていたことも示されました(普段聴かないジャンルの音楽動画視聴時を100とした時の割合).普段聴かないものであるにも関わらず,半分以上の割合で好みに合っていたため,これは高い値であり提案アプローチによる効果だと考えられます.

実験2

実験1によって,ポジティブなコメントや個性的なコメントが人の興味を引く傾向があることがわかりましたが,分析をしていく中で,興味を引くコメント・引かないコメントの両方に同じような内容のコメントが存在することに気づきました.そこで,人の興味を引くコメントの特性について深く理解するために,

  • RQ3: 音楽動画を視聴したいと思う,興味を引くコメントは人々の間でどの程度一致するか?

という新たなリサーチクエスチョンについて,追加の実験を行い検証しました.実験1では,各実験参加者に対して異なるコメントを表示していましたが,実験2では,同一の組み合わせのコメントを複数の実験参加者に提示することで,選択される(興味を引く)コメントの一致度合いを求めました.実験2では,実験1と異なる20名の参加者にシステムを使用してもらいました.

実験の結果,選択されたコメントの一致度合い(指標としてKrippendorff’s alphaを使用)は約0.35と,低い値でした.このことから,興味を引くコメントは人によって異なるということが明らかになりました.

展望

今回は実験用のシステムを実装しましたが,提案アプローチの有用性が示されたため,今後は,ユーザが高評価したコメント・動画の保存機能の追加や,各ユーザに合った興味を引くコメントを高い確率で表示できるようにすることで,実際にユーザが使用するためのシステムを実装する予定です.

発表スライドと書誌情報

木下 裕一朗, 佃 洸摂, 渡邉 研斗, 中塚 貴之, 中野 倫靖, 後藤 真孝, 中村 聡史. 動画共有サービス上の時刻同期コメントを視聴のきっかけに用いた音楽動画探索システムに関する検討 , インタラクション2025, pp.21-30, 2025.

おわりに

今回初めてインタラクションに参加しましたが,人の多さに驚きました.3日間でとても多くの発表を聴くことができ,また,自分自身の登壇・デモ発表も多くの人に来ていただけて非常に嬉しかったです.今後につながる有益な意見をたくさんいただくことができました.

最後になりますが,論文執筆や発表に関して多くのアドバイスをしてくださった,共著者の産総研の皆様と中村聡史先生に感謝申し上げます.当日のデモ発表のサポートまでしていただき,本当にありがとうございました.

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