中村研究室B4の斉藤です.みなさんいかがお過ごしでしょうか? 私はというと蒸し暑い東京を離れ,ハワイのプールサイドで本記事を執筆中でございます.
さて,2017.05.23~26に愛知県名古屋市のウインクあいちにて開催された第31回人工知能学会全国大会(JSAI2017)に参加し,研究発表をしてきたのでご報告させていただきます。
発表内容
私はこれまで手書き文字がひとに与える印象の調査を行なっており,2016.8.29~30日に行われたSIGHCI169にて「手書き文字に対する書き手識別と好感度に関する調査」というタイトルで発表をしてきました.今回の研究はこの研究で得られた結果をもとに,電子コミックへの適用を検討したものとなっております.
我々の最終目標は,「読者の手書き文字とコミック内のフォントを融合することでユーザそれぞれがキャラクタへの没入感を向上させることができる電子コミック」です!
ではなぜこのような電子コミックを提案するに至ったか,順を追って説明していきます.
背景
コミックが電子化したことで,みなさんそれぞれの携帯端末にコミックをダウンロードして閲覧することができるようになりました.しかし現在出回っている電子コミックのほとんどは紙媒体のスキャンデータなので,せっかくデジタルのデータを各々の端末に入れているのに画一的なコンテンツしか見ることができず,電子コミックならではの楽しみ方ができていません.もちろん紙媒体と同じ状態のものを読むことも楽しみ方の一つとしてあるのですが,我々は読み手に応じて楽しみ方を変えても良いのではないかと考えています.
これまでの研究
我々はこれまで手書き文字の印象調査を行ってきました.その結果,以下の2点ようなことが明らかになりました.
- ひとは自身の手書き文字を識別することができる
- ひとは自身の手書き文字に対して好感を抱き,他者の手書き文字と融合すると好感度が高まる
結果の2点目について,具体的に説明しますと,下図左の私の手書き文字と下図右の他者の手書き文字を融合することで生成された下図下の手書き文字は,私にとってこの3つの文字列の中で最も好印象な字となるのです.
この研究の詳細は前回の発表報告記事(こちら)に記載されていますので,ぜひご覧ください.
着想
この手書き文字同士を融合したときに好感度が上がるという特性が,フォントと融合したときにもあらわれるのではないかと考えました.そこで我々は,読者のお気に入りのキャラクタに対し,読者の手書き文字をセリフに使用されるフォントと融合して提示することで,融合文字に自分らしさを感じ,好感を抱くため,漫画を読み進めていくうちに対象キャラクタへの共感度が向上する電子コミックとそれを実現する手法を提案しました.
ちなみに,下の図はとある漫画の登場人物の「好きだ」というセリフに対して,10人それぞれの「好きだ」という手書き文字を50%融合している様子です.多くの人が、自分の手書き文字が融合された「好きだ」を、あーなんか好きだと言ってくれます。
今回行なったこと
本研究では上記の電子コミックの実現の第一歩として,手書き文字とフォントの融合手法の提案と融合手法を実際にコミックに適用可能としたプロトタイプシステムの実装を行いました.
実際にコミックに適用した例をいくつか紹介していきます(尚,こちらは学術研究使用のために集められたManga109内のコミックを使用しています).
図1は男性が発言した「あ」という部分に対して,私の手書き文字のみを適用したものと融合文字を適用したものを比較したものです.手書き文字のみだと元画像と比べてかなり違った字形となり,違和感が生まれるのですが,手書き文字とフォントの融合を行うことで,違和感が生じることなくコミックに適用できているかと思います.また融合文字をみたときに私らしさを感じることができるので,前回の研究の結果と関連があるのではないかと思われます.
図2は私以外の男性2名の手書き文字を適用したものを比較したものです.字形をみるとそれぞれが微妙に異なっていることがわかります.しかしこれだけ微妙な変化にも関わらず,3名中2名が自身の手書き文字が含まれた融合文字が最も好きだと回答していたため,コミックをそれほど変化させることなく,読み手にはしっかり効果が現れる電子コミックになるのではないかと考えています.
今後は手書き文字とフォントの融合文字にも個性を感じることができるのか,融合文字を適用したマンガを読み進めていったとき共感度が向上するか調査を進めていく予定です.また,本融合手法は電子コミック以外にも,ゲーム内のキャラクタの発言やカラオケの歌詞,広告などフォントが用いられるコンテンツにも応用可能であると考え,これらについても検討を行っていく予定です.
論文
斉藤絢基,中村聡史,鈴木正明:コミック内の発話への読者手書き文字融合による共感度向上手法の提案,第31回人工知能学会全国大会(JSAI2017),3H1-OS-04a-5(2017-05-25)
発表スライド
感想
元々緊張しやすいタイプというのに加えて,コミック工学のセッションの会場が120%埋まるという大盛況ぶりだったので発表前はこれまでにないほどの腹痛に襲われましたが,いざ発表が始まると会場のみなさんの笑いをいただきながらとても楽しく発表をすることができました!
また,コミック工学のセッションということもあり,漫画家の方やイラストレーターの方も聴講されていて貴重なコメントをいただくことができました.これを励みにこれからも本研究を進めていきたいと思います.
名古屋のご飯で唯一楽しみにしていたのが手羽先だったのですが,他の料理も思っていたよりおいしいものが多くて安心しました(名古屋の人ごめんなさい).
最後になりましたが,サポートをしてくださった中村先生,共に苦労を乗り越え,4日間名古屋で行動を共にしていただいた牧さんにこの場をお借りして御礼申し上げます.今後ともよろしくお願いします.