はじめに
こんにちは。中村研B4の成瀬詩織です。
2025年11月26日から11月27日に淡路夢舞台国際会議場(兵庫県淡路市)で開催された第 215回ヒューマンコンピュータインタラクション研究(HCI215)にて、「芸術系職種における固定姿勢緩和に向けた腹圧による機能切り替え手法とその検証」というタイトルで研究発表を行いましたので、ご報告させていただきます。
研究背景
PCによるデスクワークを行った経験のある方、漫画やイラストを制作する芸術系職種に携わる方は、長時間の座位姿勢を伴う作業を行う人が多いと思います。そうした中で、長時間の作業中姿勢が固定され、血流の悪化や姿勢の悪さにより、首・肩・腰への負担が蓄積しやすくなり、身体に負担を与えてしまうという問題が生じます。
こうした問題を背景として、不良姿勢を警告するアラームによる注意喚起や、定期的な通知型介入手法が研究されていますが、これらの手法はユーザの集中を妨げてしまう可能性があり、作業の効率化や集中力の維持に対する考慮がなされていません。
そこで、本研究では、芸術系職種におけるイラスト描画中に行われるペンと消しゴムの機能切替操作に対して、腹圧を加える動作を入力操作として割り当てる UI を提案しました。これにより、 作業を中断せずに体幹筋群の軽度な活動を促し、良い姿勢の維持と集中力の継続を支援することを目的としています。
提案手法
この研究では、描画中の「ペン/消しゴム切替」など頻繁に行う操作を腹圧(お腹に力を入れる動作)に割り当て、
・体幹筋群の軽い活動を促す
・姿勢の意識づけと集中維持を両立する
ことを目的としています。
構成:
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感圧センサ(FSR 402)を革ベルトに装着し,Arduinoで腹圧値を計測。
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腹圧が一定の閾値を超えたらペンと消しゴムを切り替える「ツール切替」を実行。
実験と結果
① 腹圧入力の認識精度実験
一つ目の実験では、実験協力者10名の方に参加していただき、200試行のPress/Relax動作で精度評価を行いました。
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キャリブレーション区間数(K)を変えて分析した結果:
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精度(Accuracy)は 0.981〜0.986 と高水準。
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少数区間(K=3)でも安定しており,閾値τを固定しても精度 0.982
→ 短時間の調整で十分高精度に識別可能。
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② 描画タスク比較実験
実験①での精度結果を踏まえ、腹圧での入力がツールの切替操作に割り当てることが有用であると判断し、実際の描画タスクを用いての比較実験を行いました。実験協力者20名の方に参加していただき、腹圧UIと従来UIの二条件を実施しました。
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条件:
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腹圧UI(腹圧でツール切替)
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従来UI(タッチボタン切替)
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被験者20名,描画課題(植物イラスト模写)を実施。
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NASA-TLXおよび主観評価アンケートで評価。
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NASA-TLXにおける総合スコアでは腹圧条件が平均40.1、従来条件が平均34.7となり、t検定の結果有意な差は認められませんでした。
一方で、条件別レーダーチャート図に示すように、NASA-TLXの各項目のうち「身体的要求」でのみ有意差が見られ、腹圧操作がより身体を使うインタフェースであることが確認されました。
このことから、身体的負担はやや増加するものの、知的負荷や集中度への影響は従来操作と同程度の従来の操作感を保ちつつ、身体入力を取り入れることができるのではないかと考えました。
また、主観評価アンケートでは「腹圧でのツール切替を直感的に操作できたか」や「腹圧を意識するようになったか」といった項目で高い評価が得られ、腹圧入力が操作として受け入れられやすいことが示されました。一方で、腹圧入力による集中力の向上は見られなかったことから、今後のUI設計では作業への没入感を損なわない仕組みやフィードバックの改善が必要であると考えられます。さらに、長期的な運用実験を実施し、腹圧入力を含む身体動作が体幹筋群の活動や姿勢保持に与える影響に対する検証も行っていきたいと考えています。
発表スライドと論文情報
感想
今回たくさんの方のサポートのおかげで無事に終えることができました。研究聴講では、著名な先生方や研究員の方、優秀な学生さんの研究のお話を直接聞くことができて、自分にとって非常に刺激のある時間でした。
また、学会前には神戸周辺の南京町や港付近の水族館を散策しました。普段とは違った街並みで充実した時間を過ごすことができました。滞在時間の関係で淡路島内での観光ができなかったため、次回は淡路島ならではの観光地にも訪れたいと思います。
最後になりますが、実験準備から論文のチェック、発表練習などで支えてくださった先輩方、中村先生に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。



