はじめに
こんにちは。中村研究室B4の櫻井翼です。
2023年3月12日、13日に大阪で開催された第9回コミック工学研究会にて「漫画内キャラクタの覚えやすさに関する基礎調査」というタイトルで発表してきましたので、報告させていただきます。
研究内容
皆さんは漫画のキャラクタを忘れてしまい、なかなか思い出せないといった経験はありませんか?
(自分は最近、とあるミステリ作品でしばらく失踪していたキャラクタの話になったときに、それが物語で重要な宿敵であるにも関わらず全然ピンと来ず、数巻分をまるまる読み直しました..)
漫画は数多の作品が存在し、そして生まれ続ける人気の高いコンテンツです。しかし、連載漫画では週単位・月単位で更新されることが多く、読書に一定の空白期間が生まれます。また、複数作品を同時に読む読者も多いことから、漫画の内容や登場キャラクタについて忘れてしまうことがあります。
特に登場キャラクタを忘れてしまうと、会話で触れられた話についていけなかったり、後の展開(物語)が理解できなくなってしまうことが考えられます。これらを確認するためには、漫画の見返しやインターネットでの検索といった手段があります。しかし、漫画の見返しは見直すべき箇所を探すのが難しい場合や、インターネット検索はその作品のネタバレを受けてしまう可能性があります。
この研究では、漫画を読み進める段階においてキャラクタを正確で長期的に覚えられるようにする記憶手法の実現を目標としています。ただ、こうした手法の確立には、そもそも正しく覚えられるキャラクタと覚えられないキャラクタ間でどのような違いがあるかを明らかにする必要があります。
そのため今回は、キャラクタに関する記憶テストの設計および実施をし、漫画内キャラクタの覚えやすさに影響する要因の調査を行いました。
実験設計
「キャラクタを覚えている」状態には様々なものがあります。例えば、
- 何も見ずにキャラクタについて思い出せる
- 視覚的にキャラクタを確認すると思い出せる
- 名前を見れば思い出せる
などが挙げられ、いずれも覚えている状態として扱うことができます。この研究での目標は、読書をするうえで漫画の理解に困らないことであるため、読書中にキャラクタの顔と名前をペアとして正しく認識できている状態が重要であると考えました。つまり、名前が提示されたときにそのキャラクタの顔が思い浮かび(名前→顔)、顔が提示されたときにそのキャラクタの名前が出てくる(顔→名前)ことが理想となります。
この(名前→顔)と(顔→名前)のうち、(名前→顔)では、キャラクタを思い浮かべるためのヒントは会話内で呼ばれた名前のみであり、直後の数シーン・数ページに渡ってこの名前のキャラクタが登場しないことも多いです。一方(顔→名前)では、物語の理解に必要な情報は、そのキャラクタがしている行動やどのようなキャラクタなのかといったことであり、名前を覚えられていなかった場合でも、読むうえではあまり問題ないことが多いです。そこで、物語の理解においてより難しいのは、名前から顔が思い浮かぶことであると考え、この研究ではこの(名前→顔)を対象とした記憶実験を行いました。
実験(記憶テスト)
実験では8作品のスポーツ漫画を対象とし、1巻目を読んだ後にキャラクタの名前から顔を思い浮かべられるか(名前→顔)を確認する記憶テストを実施しました。
テストは読書終了直後と3日後の合計2回で、1作品あたり平均10名が回答を行いました。
自己申告による記憶度に関する問題(左)と、解答を提示したうえで確認を行う問題(右)
©古舘春一「ハイキュー!!」
結果と考察
実験の結果、「はっきりと正確に覚えられていたキャラクタ」は記憶テスト1回目で47.1%、2回目で32.9%でした。
また、各キャラクタの漫画内要素の数(登場回数・名前が呼ばれた回数・単体描画の回数)を収集し、その結果と記憶テストの回答を元に登場キャラクタのクラスタ分類を行いました。各クラスタにおける漫画内要素の出現割合をページの序盤、中盤、終盤でまとめたものが下の図になります。
クラスタ1:よく覚えられていたキャラクタ群、クラスタ2:中程度に覚えられていたキャラクタ群、クラスタ3:あまり覚えられていなかったキャラクタ群
この図から分かるように、比較的覚えられていたキャラクタ群(クラスタ1, 2)は漫画内要素が定期的に出現し、覚えられていないキャラクタ群(クラスタ3)は漫画内要素が中盤で高く終盤にかけて減少している傾向がみられました。そのため、キャラクタの登場の仕方や呼ばれ方に偏りがある場合、記憶に残らない可能性が示唆されました。
全体として、覚えやすいキャラクタは物語として重要な人物や個性的なキャラクタが該当し、覚えられていないキャラクタは主人公と関わりが薄い、試合での対戦相手の選手などが当てはまりました。また、キャラクタの顔画像を提示したことで思い出せた場合があり、それらは役職名で認識されているキャラクタや視覚的に特徴のあるキャラクタでした。
今回の実験で覚えられなかったキャラクタも提示画像によっては思い出せる可能性も考えられるため、今後はキャラクタの記憶容易性についてさらに調査し、効率的にキャラクタ想起を行える支援手法について検討を行っていく予定です。
実験の詳細や分析内容についてはこちらや以下のスライドに説明がありますので是非ご覧ください。
発表スライド
論文情報
最後に
相も変わらず発表には慣れないのですが、学会参加で色々な場所にいけるのはとても楽しいです。
今回のコミック工学研究会は大阪での開催だったため、粉物料理をたくさん食べました。今後も美味しいご飯を食べるために(?)研究を頑張ろうと思います。
先輩方と食べに行ったお好み焼き
明石焼きと豚が厚すぎるとん平焼き
最後になりますが、多くのサポートをしてくださった中村先生、研究相談や発表練習に何度も付き合っていただいた伊藤先輩をはじめとする研究室の方々に心より感謝いたします。
以上。
ピンバック: HCGシンポジウム2023にて「漫画の振り返りを支援するクイズとその答えからのシーン推定」というタイトルで発表してきました(櫻井翼) | 中村聡史研究室