第195回HCI研究会で「プログレスバーの周辺の視覚刺激と数え方による体感時間の変化の調査」というタイトルで淡路島で発表してきました(青木柊八)

      2023/01/05

はじめに

初めまして、中村研B3の青木柊八です。
冬の寒さが一段と強くなって、2022年の訪れを肌で感じられるようになりました。

さて、2021年11/30~12/1にハイブリッドで行われた第195回HCI研究会にて、「プログレスバーの周辺の視覚刺激と数え方による体感時間の変化の調査」というタイトルで発表しましたので、そちらの発表報告をさせていただきます。

 

研究概要

皆さんは、パソコンなどを使っている最中に、待機時間が発生して作業が数秒間中断されてしまった、という経験はありますでしょうか。

現代では、多くの人の味方となっているパソコンやスマホ、ゲーム機ですが、それらを利用している最中に発生するデータのロードなどによる待機時間は仕方のないことではありますがやはりストレスを感じさせる要因となります。この対策としてプログレスバーを提示することで視覚に作用して待機時間を短く体感させる工夫がなされていますが、ただプログレスバーを設置するだけでは限度があると考えました。そこで、速度対比によってプログレスバーの速度をより速く知覚させることで待機時間をより短く体感させることが可能であると考え、視覚刺激をプログレスバーの周辺に設置することで速度対比を誘発させる手法を試してみました。

視覚刺激としては、先輩の研究を参考にしたうえで、プログレスバーと同一方向に運動するものを3種類、プログレスバーと逆方向に運動するものを3種類、そしてプログレスバーのみを提示するものの計7種類を用意しました。

以下がそれらの提示パターンです。

プログレスバーと同一方向に運動するもの

  • rotate_balls: 楕円軌道状を灰色の円が時計回りする視覚刺激
  • slide_balls: 左から右へ灰色の円が運動する視覚刺激
  • wave: 正弦波が左から右へ運動する視覚刺激

 

プログレスバーと逆方向に運動するもの

  • rotate_balls_rotate: 楕円軌道状を灰色の円が反時計回りする視覚刺激
  • slide_balls_rotate: 右から左へ灰色の円が運動する視覚刺激
  • wave_rotate: 正弦波が右から左へ運動する視覚刺激

 

そして今年度もコロナウイルスの関係上対面での実験が困難であり、それに加えて実験協力者の人数が欲しかったためYahoo!クラウドソーシングを利用して実験を行いました。

と、ここまでは先輩の実験の延長線にすぎません。今回僕が新たに着目したのは、人の時間における数え方が体感時間に与える影響、という点です。

人間の性格が千差万別であると同時に、数の数え方にもまた個性が現れると我々は考えました。そして同時に、その数え方が体感時間に影響を与える要因の一つであると予想し、調査することにしました。

今回用意した数え方のパターンとしては以下の4種類です。

  • A: 開始と同時に0秒から数える人
  • B: 開始と同時に1秒から数える人
  • C: 開始後に少しの間をあけて1秒から数え始める人
  • D: 開始後に少しの間をあけて0秒から数え始める人

 

実験を行う前に、秒数を数えてもらうカウント群と秒数を数えてもらわない非カウント群にランダムで分かれてもらい、カウント群にはプログレスバーが提示されている間は毎秒数えるごとに画面をクリックするように指示しました。

結果としては以下のようになりました。左がカウント群の結果で右が非カウント群の結果です。

 

ここから、待機時間が9秒以下の場合では、

  • 非カウント群よりカウント群のほうが体感時間が短縮される
  • 非カウント群では視覚刺激なしより視覚刺激が提示されている方が体感時間が短く回答される

そして10秒以上の場合では、

  • カウントの有無や視覚刺激の持つ方向とは関係なく、体感時間が短縮する場合と延長する場合がどちらも存在する
  • 視覚刺激の持つ刺激方向はプログレスバーの速度知覚に直接は影響しない

ということが明らかになりました。

 

続いて、各回答の数え方におけるパターンの分布としては以下の表のような結果がでました。

 

ここから、

  • 男女ともにパターンAが最も頻出である
  • 全体では23%の回答がパターンB、パターンC、パターンDに該当するので、全体の約23%の体感時間が数え方による影響を受けている

ことが明らかになりました。

 

さらに、今回はより正確な結果を得るために実験システムを数え方に重きを置いたうえで改良し、追加実験を行いました。

最重要な変更点としては、プログレスバー提示のフェーズへ移る際の形式を、画面をクリックする形式から時計回りで回転する円が完成したら実験が開始される形式に変更したことです。これは、画面をクリックすることが、時間を数えるためのクリックに影響を与えている可能性を考慮したからです。

結果としては以下のようになりました。

 

ここから、

  • パターンCの割合が大幅に増加した
  • 全体では約60%の回答がパターンB、パターンC、パターンDに該当するので、全体の約60%の体感時間が数え方による影響を受けている

ことが明らかになりました。

 

さらに、パターンA、BとパターンC、Dを分類する際に利用した最初のクリックのタイミングにおける0.02秒刻みの分布をグラフ化したものが下のグラフです。(色は全体のうちの男女の割合)

 

ここから、最初のクリックが0.5秒や0.75秒付近に多く分布していることがわかります。

 

追加実験を通して分かったこととしては、

  • 数え方による影響を受けている回答の割合は本実験より大幅に増加した約60%であり、数え方の影響が実験結果を左右している可能性が存在する
  • 人は0.5秒や0.75秒付近に1秒目を置く傾向があるので、最初の1秒を正確にしなければ正確な結果が得られない

ということです。

発表スライド

発表スライドは以下から参照できますので、よろしければご覧ください。

 

論文情報

青木 柊八, 中村 瞭汰, 中村 聡史, 山中 祥太. プログレスバーの周辺の視覚刺激と数え方による体感時間の変化の調査, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2021-HCI-195, No.31, pp.1-8, 2021.

感想

今回多大なる緊張の中初めての論文発表をさせていただきましたが、同期や先輩、発表を聞いてくださった皆様も優しく対応してくださり、とても有意義な体験ができました!

さらに、今回の旅で研究室のみなさまについて詳しく知れて、仲も深まったように感じられました!

最後になりますが、今回の実験に協力していただいたヤフー株式会社の山中さんに加えて、実験や論文執筆、発表練習にお付き合いいただいた中村先生、先輩方、そして同期にこの場をお借りして感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

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