梅雨空と湿気がより一層うっとうしく感じられる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。中村研究室M2の佐藤剣太です。
このたび、6月5日〜8日にかけて鹿児島県鹿児島市の城山観光ホテルにて行われた、第32回人工知能学会全国大会に参加し、研究発表をしてきたので、その報告をさせていただきます。
今回発表した内容は、第47回エンタテインメントコンピューティング研究会で発表した内容について、追加で実験と分析を行ったものとなっています。発表原稿のPDFには下記からアクセス可能となっておりますので、ご興味ありましたら是非ご覧いただければと思います。
質疑応答の様子
前回のおさらいと問題点
本研究では、「漫画作品を途中まで読んだものの止めてしまっているユーザに続きを読んでもらう」ことを目標として,ユーザの読書量に応じて最も適切な広告を自動で決定することを目指しています。
以前の実験では「既読」「未読」どちらのシーンを提示した方が読者の意欲をより増進できるかを、読書実験にて検証しました。その結果、途中まで読み進めた作品において、未読シーンを提示された時の方が読書への意欲がより増進されることが明らかとなっています。
しかしながら、この実験ではいくつか問題点がありました。
① 実験協力者が16人と少なく、十分な説得性がない
② 推薦シーンに書かれている内容についての傾向が分かっていない
今回の研究成果は、これらの問題点を踏まえて追実験・追加分析をおこなったものを盛り込んでいます。
① 実験協力者の追加
以前は協力者が16人でしたが、今回さらに16人を追加することで合計32人としました。
4つの評価値平均は以前よりもわずかながら低下しているものの、
- 読書あり条件において、未読シーン(後半シーン)を提示するほうが既読シーン(前半シーン)を提示するよりも読書意欲が増進される
- 読書あり条件のほうが、前半・後半シーンいずれの評価値平均も読書なし条件より高い
ということが明らかになっており、以前の結果の説得性を高めたものといえます。
前半・後半シーンの評価値(読書あり・なし条件それぞれについて)
つまり漫画の広告などを出す場合は、その人の読書状況を考慮し、読んでいない先の部分を提示する方が好ましいと言えます。ネタバレのリスクはありますが、面白い結果です。
②推薦シーンの分析
推薦シーンデータセットを著者の私の主観で見返してみたところ、大きく分けて2つの傾向が見られました。その一部を以下に掲載させていただきます。
[1] サイズの大きいコマが含まれている
上端から下端まで伸びているコマ、見開きをほぼ占めているコマを持つシーンなどがみられました。こういったシーンは、コマ数の推定を行うことによって自動で選出できるのではと考えています。
[2] 活字を用いないコマの割合が高くなる
セリフを用いずにイラストのみで表現されていたり、活字ではなく手書きのセリフ表現を用いたコマを多くもつシーンも見受けられました。こういったシーンには文字認識を用いることにより、活字の少ないシーンを推薦シーンとして選出できるのではと考えています。
推薦シーンデータセットについて、現在はすべてユーザベースで構築をおこなっていますが、いずれは機械学習を用いて自動で選出することを検討しています。
詳しい内容につきましては発表原稿に書かれておりますので、以下のものをご覧いただくか、cs172041@meiji.ac.jpまでメールを送っていただければお渡しいたします。また,発表に使用したスライドは以下のものとなります。
発表原稿
佐藤剣太, 牧良樹, 中村聡史. コミックの読書意欲を増進させる要素に関する分析. 第32回人工知能学会全国大会(JSAI2018). 2018, vol. 1K1-OS-2a-01, p. 1-4.
発表スライド
いただいた質問
Q. 年代別に分析した部分は、なぜ2000年を境に分割したのか?
A. 年を基準にして分けたのではなく、作品を古い順位にソートした時に、作品数が半分になる年が2000年となっていた。
Q. 推薦したい内容はシーン?コマ?ページ?見開き?推薦するモデルに合わせて因子を設計する必要がありそう。
A. これまでは見開き2ページを選んでもらうという形で教示した。
Q. 7段階評価でやったのならば、正規化する必要があるのでは?
A. 推薦シーンに対して高い、もしくは低い評価値ばかりつける人がいたのでその必要性はあると思う。
さいごに
発表中の様子
日々の発表練習をチェックしてくださった中村先生、研究室のみなさん、ありがとうございました。
また、前回の研究発表の頃から幾度となく発表練習に付き合ってくれた牧良樹くん、レンタカーの手配やバスのチェックなど交通面でのサポートにまわってくれた斉藤絢基くん、4日間のあいだ鹿児島で行動を共にしてくれたことに深くお礼を申し上げます。本当に本当にありがとうございました。