中村研D1の木下裕一朗です.10月5日から7日にかけてフィンランドで行われたNordiCHI 2026にて,”Easy to Hear, Easy to Select?: Investigating Speech Rate as a Potential Deceptive Pattern in Non-Native Users’ Decision-Making“を発表しましたので,その報告をさせていただきます.
研究概要
背景
近年では,Webサイトやモバイルアプリ上でDeceptive Pattern(Dark Patternとしても知られている)が多く使用されていることが問題視されています.これは,企業の利益となるようにユーザの行動を誘導するインタフェースデザインを指す言葉で,例えばマーケティングメール受信のチェックボックスに最初から✔︎が入っていたり,「残り2席」のような表示がこれに該当します.
これまで主にGUIを対象としてDeceptive Patternに関する研究が行われてきましたが,VUI(Voice User Interface)にもその使用が広がっていくことが懸念されています[1].先行研究では,合成音声の特徴を意図的に操作することで,ユーザの意思決定を誘導できてしまう可能性が示されてきました[2][3].これまでの研究では,ユーザが母語によってVUIとインタラクションする状況に着目されてきましたが,実際には非母語で操作をしなければならないユーザや状況も存在します.そこで本研究では,先行研究でも検証されてきた合成音声の速度の意図的な操作によって,非母語話者の意思決定が誘導されうるか検証を行いました.
実験
海外旅行時における選択というシナリオを設定し,質問に対して2択の選択肢から1つを選んで回答するという実験を実施しました.選択肢は,”Option 1, [選択肢の内容]. Option 2, [選択肢の内容].”という形式で合成音声により提示し,選択肢の内容を読み上げるときに,Option 1と2で速さが異なるようにしました.合成音声の速さ(WPM)は全部で4つ用意し,113, 139, 165, 191 WPMを使用しました.実験参加者はクラウドソーシングを利用して募集し,オンラインで実験を行いました.
結果と考察
遅い速度で提示した選択肢の方がわずかに選ばれやすいという結果が得られましたが,予想と反して,選択率は期待値よりも有意に高くありませんでした.我々の結果は,許可リクエストの選択時に,速い音声で提示された選択肢あるいは遅い音声で提示された選択肢が一貫して選ばれやすいわけではなかったという先行研究の結果[3]と同様の結果でした.そのため,音声の速度だけを操作する場合では,母語であろうと非母語であろうとユーザの行動を誘導するDeceptive Patternにはなり得ない可能性が考えられます.今回は音声特徴の一つの要素のみに着目しましたが,将来出現可能性が考えられるVUI特有のDeceptive Patternについて,今後も検証していきたいと考えています.
参考文献
[1] Owens, K. et al.: Exploring Deceptive Design Patterns in Voice Interfaces. EuroUSEC’22.
[2] Dubiel, M. et al.: Impact of Voice Fidelity on Decision Making: A Potential Dark Pattern?. IUI’24.
発表スライド
おわりに
NordiCHIに参加するのは初めてだったのですが,研究者同士の交流の機会が多く設けられており,とても充実した時間を過ごすことができました.個人的には,学会の規模が大きすぎなかった(参加者500人ほど)ことで,パラレルセッションの数が少なく,聴衆が多かったことも良いと感じました.私自身,これまでの国際会議では日本人の参加者と話しがちで,海外の研究者と話すということをあまりできていなかったのですが,今回は様々な国の研究者と交流ができました(そもそも日本からの参加者が6人しかいなかったというのもありますが).一方で,深い議論をするには,まだまだ英語力(+研究に対する考えなど)が足りていないことを実感したので,今後さらに頑張りたいと思いました.

