中村聡史研究室M1の瀬崎です.
2025年12月3日から5日にかけて開催されたWISS2025にて,溝間隔の違いによる筆圧変化を活用したシート埋め込み型ID認識手法を発表しましたので,その報告をさせて頂きます.こちらは,昨年の卒業研究を応用に重視して発展させた研究です.
研究概要
本研究は,複雑な電子デバイスを用いることなく手書きによるデバイスへの入力および手書きの補助を実現する事を目指しています.そこで我々は,ペンデバイスを用いて筆記する際に筆記対象物の表面特性により引き起こされる筆圧変化に着目しました.筆記対象物により生じる筆圧変化には,例えば表面がツルツルと滑らかな場合は筆圧の変化は少なく,ザラザラと凹凸がある場合は筆圧に小刻みな変化が生じます.こうした筆圧変化の特徴が識別のための信号源にもなり得るのではないかと考えられます.
そこで我々は,筆記対象物に任意の溝を施すことにより,その溝が引き起こす筆圧を用いて筆記対象物を識別するというアプローチを提案しました.また,筆記時の筆圧変化によって特定の筆記対象物を識別するシステムのプロトタイプを実装しました.こちらからシステムをgithubにて公開しています.
操作例の動画
提案手法
パソコンなどに対する入力は、様々な方法で多様に実現されている。例えば、音を認識したり、マルチタッチを用いたり(回路基盤を使って高速で画面をタッチさせたり)、QRコードなどの2次元ラベルを用いたりするものがある。その中でも今回は、筆圧を用いた入力に可能性を見出し検証しました。
タブレットで筆記する際に”筆圧を用いる”と聞くと、ペンの太さの調整を思い浮かべる人が殆どだと思いますが、今回は筆記対象物による筆圧変化を入力に応用させています。
ペンの太さ調節を行う際は、ユーザが筆圧を強くしたり弱くしたり(ペンを画面に強く当てたり弱く当てたり)します。その際にも、筆圧の変化は生じており、それがわかりやすくペンの太さとして表現されています。しかし、我々は今回、筆圧は筆記対象物の表面特性によっても変化することに着目しました。特徴のある表面を持った物体の上で筆記をすると筆圧にもその特徴が反映されます。
(※左に現れる青い線のグラフは、筆圧を表したグラフです)
動画のように、ディスプレイ上で書くと滑らかな筆圧変化が(動画前半部分)、特徴的な表面を持った筆記対象物の上で書くとガタガタとした細かな上下変動のある筆圧変化が(動画後半部分)見られます。
この違いを使って、直接書かれているのか否か、及び、どんな表面特性を持った物の上で書かれているのかを判別します。
判別方法
ここでは、判別方法を図を用いて解説します。
一言で言うと、筆圧変化の頻度を信号源として利用して判別しています。
以下の2つの図を見比べてみてください
(※青い線で表現されているのが筆圧の変化を表しています)


まずは、青色のグラフをみてみてください。シートAに比べてシートBはpeak発火箇所(図のオレンジの点)の数が少ないことがわかると思います。これは、それぞれのシートによって引き起こされた特徴的な筆圧変化箇所を捉えたもので、シートの特徴によって異なります。
次は、黄色いシートAとシートBを見てみてください。それぞれ凸凹の数が異なると思います。この凸凹の数が、先ほど見て頂いたpeak発火箇所の数に対応しています。この違いによってシートAを使っているのか、シートBを使っているのか判別してます。勿論、直接ディスプレイに書くと、この凸凹はないので、理論上はpeak発火箇所が0個となり、それも判別可能です。
このように、筆記対象物の表面特性が、筆圧変化に影響を及ぼすことに着目して、判別を試みているのがこの研究で扱う入力手法の説明になります。
識別精度
実際に、4種類の異なる表面特性を持つシートを作成し、どの程度で判別が可能か検証しました。
(下画像は上から1.0mm, 1.5mm, 2.0mm, 2.5mmの間隔で凹凸を付与したアクリル板)

以下がその結果をまとめたマトリックス表になります

全体の平均判別率は78%という結果になりました。
応用例
ここからは、実際にこの入力システムを用いた応用例を複数挙げていきます。
①物理カラーパレット
特徴的な表面それぞれを一つの色に対応させ、なぞることにより、ペンの色を変えられます
②学習支援シート
なぞった部分の説明が表示され、触覚と教育を組み合わせました
③UI格納型シート
呼び出しタグとして、画面内外限らず自由に再配置することのできる
④視覚支援シート
ディスプレイ上のGUIが提示できない情報を物理形状で伝達する
これらのように電子的な特徴を持たないシートを用いて判別し、入力に用いる点がこの手法の特徴の一つになっています。
発表スライド
今回の発表で使用したスライドです。
文献情報
おわりに
今回が初のWISS参加でしたが,2泊3日で常に研究について知り,ディスカッションをするという夢のような体験を出来ました.自分たちの研究室には無いテーマの研究は勿論ですが,分野,発想,考え方,デモ,発表の仕方からスライドまで,見るもの触るもの全てが新鮮でした.この3日間は常に,目が,耳が,心が釘付けで気が付いたら倒れ込むような疲労に襲われていました.この一時を逃してはいけない!と思うのではなく,只々無我夢中に惹かれたものを追いかけるという感覚でした.登壇およびデモ発表が最終日(3日目)だったので,開放されることはありませんでしたが,だからこそずっと本気で飛びついていけたのだとも思います.

自分の登壇・デモ発表にも多くの方々が耳を傾けて下さったこと,本当に嬉しかったです.今後に繋がる,新たな視点やご意見を沢山いただけました.
最後になりますが,論文執筆や発表に関して多くのアドバイスをして下さった中村先生と中村研の皆,多様な面で支えて下さりWISSまで導いてくださった関口祐豊先輩に感謝申し上げます.直前または当日までサポートして頂き,本当にありがとうございました.