第214回HCI研究会で「美容系YouTuberの化粧工程データセットの構築とその特徴分析」というタイトルで発表してきました(菅生遥叶)

投稿者: | 2025年9月19日

はじめに

はじめまして.中村研究室B3の菅生遥叶です.

2025年9月3~4日に開催された第214回ヒューマンコンピュータインタラクション研究会で「美容系YouTuberの化粧工程データセットの構築とその特徴分析」というタイトルで発表を行いましたので,ご報告させていただきます.

研究概要

背景・目的

日常的に化粧をする人は少なくありませんが,その学習方法は確立されておらず,多くの人がSNSを活用して化粧の知識を得ています.しかし,膨大な情報の中から自身の化粧工程や顔や肌の特徴に合った情報を得ることは容易ではありません.

われわれは,化粧工程を工学的に扱えないことがその原因であると考えました.そこで,これまでに研究室の先輩(修了生)である髙野さんが化粧工程をフローチャートで構造化する手法を提案し,その応用方法について検討してきました.

  1. 個人の頭の中にしかなかった化粧工程をフローチャートで表し,情報として扱えるようにする
    →HCI200:「Make-up FLOW: 個人差・状況差の大きい化粧工程の構造化と忘れやすさに関する調査
  2. 他者間の化粧フローチャートの類似度算出手法を検討する
    →HCI204:「化粧フローチャートに基づく大学生・大学院生の化粧類似度推定
  3. 化粧フローチャートの類似度に基づいて,化粧のチュートリアル動画を推薦する手法を検討する
    →HCI206:「化粧フローチャートに基づく美容系YouTuberの動画推薦手法の検討
  4. 化粧フローチャートの類似度に基づいて,化粧のチュートリアル動画を推薦する手法を検討する
    →HCI212:「Make-up FLOW 2.0: 美容系YouTuberの化粧フローチャートの共有・取り入れ手法

これらの研究によって,化粧工程を工学的に扱い,計算・蓄積を可能とすることで化粧工学の応用可能性を示すことができたと考えています.しかし,その可能性はどの程度であるのかということについて十分に検討できていませんでした.

そこで,私が主として取り組んだ今回の研究では,他者が分析・拡張可能な化粧工程データセットを構築すること化粧工程データセットの特性を明らかにすることを目的としました.

 

データセット構築

美容系YouTuberの化粧動画を,HCI212で提案したMake up-FLOW 2.0を用いてフローチャートを沢山作成しました.実際に化粧動画を視聴しながら化粧フローチャートを作成している操作画面の様子は下記の動画のような感じです.

 

 

1つの化粧工程には,部位・アイテム・テクスチャおよび商品の情報を入力しています.

作成された化粧フローチャートはすべてJSON形式で保存されており,そのデータを利用して分析などをすることができます.具体的には以下の画像のように,ノード群とエッジ群に分かれて記述されています.

JSONデータ例

 

このようにして,美容系YouTuber 103名化粧動画計222件をフローチャート化しました.そして,この化粧工程データセットは一般に公開しています.データセットを公開したことにより,どなたでもデータセットの拡張に参加していただくことができるようになりましたので,ぜひ多くの方とこれからデータセットを大きくしていけたらと思っています!!

さらに,化粧工程データセットを構築・公開したことにより,化粧に関するさまざまな研究に応用できると考えています.ここでは,応用例を3つ挙げます.

  • 特徴分析:投稿者の年齢・性別,動画の投稿時期,国などによる化粧の特徴を明らかにする
  • 機械学習:化粧動画から化粧フローチャートを自動推定するシステムや化粧工程の推薦システムを作成する
  • 教育コンテンツ:データセットを分析することで一般的な化粧工程・手順を明らかにし,化粧マニュアルを作成する

 

データセット内の化粧工程の特徴分析

分析内容

今回,化粧工程データセットを用いて,2つの分析を行いました.一つ目は,化粧手順の傾向分析.二つ目は,肌タイプごとのベースメイクの特徴分析です.一つずつ分析結果と考察を以下に述べます.

化粧手順の傾向

ここでは,データセット内の全ての化粧フローチャートを対象とし,開始ノードから終了ノードまでの全ての化粧工程のアイテムの情報の2-gram頻度を求めることで,一般的な化粧手順を分析しました.主要なアイテムの遷移図がこのようになり,開始ノードから遷移割合が最も高いノードを辿ったところ,

化粧下地 → ファンデーション → コンシーラー → フェイスパウダー →アイブロウ → アイシャドウ → アイライナー → マスカラ → チーク → リップ

が一般的な化粧手順であるという結果になりました.平均化粧と言えるものかもしれません!

主要アイテムの遷移図

結果の詳細は論文をご参照ください.

肌タイプごとのベースメイクの特徴

ここでは,肌の水分量・皮脂量から分けられる4つの肌タイプを分析対象としました.

肌タイプの分類

 

化粧は,自身の肌質に合わせて行うことで仕上がりが良くなります.特に肌の質感を整えるベースメイクでは,アイテムを直に肌で施すこともあり,どのようなテクスチャを使用するのかや,どのような手順で施すのかが重要です.

そのため,肌タイプごとに異なるベースメイクの特徴があると考え,分析を行いました.分析内容は2つです.一つ目は,アイテムとテクスチャの情報を用いた化粧工程の分析で,二つ目は,部位とアイテムの2-gram頻度を用いた化粧手順の分析です.それぞれ,化粧フローチャートを文字列化したものをTF-IDF分析を用いて特徴的な語を抽出しました.

また,肌タイプごとに分析を行うため,美容計YouTuberの肌タイプをSNS等を参考にして特定しました.その結果,肌タイプごとにこのような動画数,投稿者数,化粧フローチャートの統計量が得られました.ここで対象外としたものは,肌タイプが不明な投稿者の動画やベースメイクを省いている動画,他者のアイテムで化粧を施している動画,PRの動画です.

肌タイプごとの動画数,投稿者数,化粧フローチャートの統計量

 

肌タイプごとに分析結果と考察を述べます.

  • 乾燥肌
    • 工程のTF-IDFランキングにおいて,1位が白色の化粧下地,2位がクッションファンデーションでした.さらに,手順のTF-IDFランキングにおいては,6位に化粧下地を,7位にファンデーションを連続で施すという特徴的な手順が得られました.これは,乾燥肌の水分量が少ないという特性を補うために,化粧下地とファンデーションを連続で施すことでそれぞれが持つ保湿効果を強めていると考えられます.

乾燥肌の工程・手順のTF-IDFランキング

 

  • 普通肌
    • 他の肌タイプの結果と比較し,工程と手順どちらのTF-IDFランキングにおいても特徴的な結果が得られませんでした.これは,普通肌が4つの肌タイプの中で最も理想的なバランスとされており,他の肌タイプよりも肌悩みが少ないためであると考えられます.

普通肌の工程・手順のTF-IDFランキング

 

  • 混合肌
    • 工程と手順どちらのTF-IDFランキングにおいても,コンシーラーが特徴的であり,さまざまな種類のテクスチャをさまざまな部位に施していることが結果として得られました.これは,混合肌の乾燥部位と脂性部位が混在しているという特性から,それぞれの部位に合ったテクスチャのコンシーラーを使用しているためであると考えられます.

混合肌の工程・手順のTF-IDFランキング

 

  • 脂性肌
    • 工程のTF-IDFランキングにおいて,2種類のフェイスパウダーが上位2件を占めていました.さらに,手順のTF-IDFランキングにおいて,5位にフェイスパウダーを連続で施すという特徴的な手順が得られました.これは,脂性肌の皮脂量が多いという特性を補うために,フェイスパウダーを連続で施すことで皮脂を抑える効果を強めていると考えられます.

脂性肌の工程・手順のTF-IDFランキング

 

この他にも,肌タイプごとの工程と手順の特徴語の類似度を評価しましたので,詳細につきましては論文をご参照ください.

 

いただいたご質問

  • ある化粧工程が全ての化粧フローチャートの中で占める割合は分析している?
    • 本研究では化粧手順に着目した分析を行ったため,化粧工程ごとに全ての化粧フローチャートの中で占める割合というのを分析してはいません.しかし,そのような観点から分析を行うことも興味深いと考えています.
  • 肌タイプ別の平均メイクを分析してみるのはどう?
    • 本研究では,一般的な手順の平均は求めたものの,肌タイプごとの平均手順は求めていませんでした.その分析を行うことで,応用例の一つでもある,化粧初心者への教育コンテンツにも有効だと考えます.
  • 最近の学生は美容男子が増えているが,男性向けのシステムは考えている?
    • 本研究では,美容系YouTuberを対象に化粧動画を収集しており,投稿者全員が女性であったため,男性のデータは1つも入っていません.しかし,データセットを公開したことによって,多くの人がデータを作つことができるので、性別や国に問わず多種多様なデータを集積したいと考えています.

 

発表スライド

 

書誌情報

菅生 遥叶, 髙野 沙也香, 田中 佑芽,中村 聡史. 美容系YouTuberの化粧工程データセットの構築とその特徴分析, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2025-HCI-214, No.12, pp.1-8, 2025.

 

おわりに

今回が初めての学会発表であったので,緊張と期待が入り混じる中,当日を迎えました.発表前に先輩方や中村先生から温かい激励のお言葉をいただいたおかげで,無事に発表を終えることができました.さらに,学外の先生方から貴重なご意見やご質問をいただき,今後の研究について多くの示唆を得ることができました.また,学会前後には先輩方と北海道を観光することができ,とても楽しく充実した時間を過ごしました.今回の学会発表を通して得られた経験をこれからの研究生活に活かし,日々精進していきます.

最後になりますが,発表に至るまでお力添えくださいました先輩方,中村先生に心より感謝申し上げます.

最後までご覧いただきありがとうございました.

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