第47回EC研究会で「既読・未読のシーン提示がコミック読書意欲に与える影響」という研究発表を行いました(佐藤剣太)

      2023/01/05

日に日に寒さもやわらぎ、春の足音が近づいてきた今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。中村研究室M1の佐藤剣太です。

このたび、3月16日に東京都調布市の電気通信大学にて行われた第47回エンタテインメントコンピューティング研究会に参加し、研究発表をしてきたので報告をさせていただきます。

Webでよく見るコミック広告。本当に効果ある?

普段インターネットをする中で、コミックのコマが掲載された広告を見た経験のある方も多いのではないでしょうか? こういった広告には作中のみどころ、魅力的なシーンを載せることにより読者の「この作品を買って読みたい!」「続きが気になるんだけど!」といったモチベーションを与えることができます。それにより、年々拡大するコミック市場を支える一つの手段となっているといえます。

しかしながら、こういった広告は本当に効果的に働いているのでしょうか? 読者によって作品の知識量・体験量が違うにもかかわらず同じシーンを広告として提示しても、全員に効率的にモチベーションを与えているとはいえないのでは?と僕は考えました。

例えば、読者がある程度読み進めているときに、既に読んだシーンから提示すると効果的なのか、反対にまだ読んでいないシーンから提示すると効果的なのか、ということについても今までの研究では明らかにされていません。

 

既読シーンによる動機付け VS 未読シーンによる動機付け

そこで本研究では、読書の経験量に応じたシーン提示の基礎検討として、「既読の部分から選出されたシーン」と「未読の部分から選出されたページ」のどちらが読書への意欲を増進できるかを検証しました。ここでは、コミックの前半を読んでもらい、前半部と後半部をそれぞれ提示することによって、既読部分、未読部分の効果について調査するというものになります。

この実験のため、まず、あらかじめ5名の学生に協力してもらい、コミック16作品について1巻を読んでもらい、その前半部、後半部についてそれぞれ推薦シーンを定義しました。この推薦シーンには、以下のような特徴が見られました。

  • ページをまたぐ大きなコマが存在する
  • 前後のページにくらべてセリフの量が少なくなる

その後、16名の学生にコミックの前半部のみを読んでもらうことで既読部分、未読部分が存在した状態をつくり、ここで先ほどの推薦シーンを既読部分、未読部分からそれぞれ提示することにより、どちらの部分からシーンを提示すると作品を読みたくなるかを検証しました。

前半・後半シーンの評価値(読書あり・なし条件それぞれについて)

その結果、読書をした(途中まで読み進めた)場合に未読シーンを提示すると、既読シーンを提示するよりも読みたくなる度合いが有意に高くなることが分かりました。また、読書を全く行わない場合よりも途中まで行った場合のほうが、前半・後半シーンのいずれも読みたい気持ちを強めることも分かりました。

ここでは図を割愛しますが、コミックの内容・展開やキャラクタへの関心も同時に高まり、イラストへの関心には大きな変化がないことも明らかになりました。

今回の結果は、Web上で無料版を試し読みをした読者に対して、有料部分(未読部分)から一部のシーンのみを広告として提示することで読書意欲を増進できるため、すぐにでも広告として応用できるのではと思っています。また、今回推薦されたシーンには何が描かれており、どんなセリフが書かれているかという傾向の分析が行えていないため、ここを整理したのちに推薦シーンの自動選出の手法についても検討をしていく予定です。

詳しい内容につきましては発表原稿に書かれておりますので、以下のものをご覧いただくか、cs172041@meiji.ac.jpまでメールを送っていただければお渡しいたします。また,発表に使用したスライドは以下のものとなります。

発表原稿

佐藤剣太, 牧良樹, 中村聡史. 既読・未読のシーン提示がコミック読書意欲に与える影響. 研究報告エンタテインメントコンピューティング(EC). 2018, vol. 2018-EC-47, no. 3, p. 1-8.

発表スライド

 

いただいた質問

Q. 最近のWeb広告は過激なシーンばかりが提示されているような印象。その理由についての知見とかはありますか?
A. 広告の傾向に関するサーベイはまだ行っていないので、今後深めていきたいです。

Q. ストーリーコンテンツに関連して、映画の予告などは本編の核心とは違う場所にフォーカスしていませんか?
A. 作中の本当に面白いシーンを探させるために、一番ではないがある程度の面白さのシーンを提示するのも一つの手だと思います。

Q. ネタバレはコンテンツ依存だと思うのだけど、そういうのが効かないのはどういう時ですか?
A. 各話で完結する形式のコミックならば、異なるエピソードのシーンを提示してもネタバレの影響が少ないと考えられます。

 

発表の感想

実に1年ぶりの口頭発表でしたが、4度目ということもあったのであまり緊張せずに発表することができました。限られた時間のなかでの質疑応答となりましたが、今後の課題にもつながる意見もいただき、とても参考になりました。6月には人工知能学会での発表も控えているので、それに向けてさらに実験・分析を深めていきたいと思います。

発表の様子

発表原稿の投稿や日々の発表練習に最後まで付き合ってくださった中村先生、牧良樹くん、共に研究会に参加してくれた斉藤絢基くん、本当にありがとうございました。

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