第196回HCI研究会で「筆跡の自筆との類似性が記憶容易性に及ぼす影響の検証」というタイトルで発表してきました(髙野沙也香)

      2023/01/05

はじめに

初めまして.中村研究室B3の髙野沙也香です.

年が明けて寒さがより一層厳しくなり,毛布が手放せない日々となってまいりました.皆様いかがお過ごしでしょうか.

さて,2022年1月11日・12日に開催された,第196回ヒューマンコンピュータインタラクション研究会でワコムさんとの共同研究の成果について「筆跡の自筆との類似性が記憶容易性に及ぼす影響の検証」というタイトルで発表しましたので,そちらの発表報告をさせて頂きます.

研究内容

皆さん,自分の筆跡は自分にとって覚えやすいと思いますか?

近年,小学校の授業においてiPadが導入されるなど,電子媒体が学習用具として活用される機会が多くなっています.そのため,私たちは学習の際に様々なフォントや手書き文字を目にするようになりました.そこで我々は,どのような文字が記憶しやすいのか?ということに着目してこれまで研究を行ってきました.そして,我々が過去に行った2つの研究において,一方では「提示した筆跡が自筆文字と似ていると覚えやすい」,もう一方では「提示した筆跡が自筆文字と似ていないと覚えやすい」といったように反対の結果が得られました.(先行研究1先行研究2

この結果から,私は筆跡の自筆文字との類似性が記憶にどのような影響を与えるのかについて興味を持ち,研究を行うことにしました.

ここで文字と記憶に関して,読みにくい文字の方が覚えやすいという非流暢性効果が存在し,また「接触経験のある筆跡で書かれたメッセージの方が流暢に処理され,読みやすい」という研究結果が出ています.このことから我々は,自筆文字は日々の接触の中で読みやすくなっていると考え,「自筆文字と類似している文字の方が覚えにくいのではないか?」という仮説を立てました.

この仮説を検証するために,先行研究で実施した特徴記憶実験を行うことにしました.

特徴記憶実験とは,あるテーマに関して創作された3種類の架空の物事の各7つの特徴を記憶してもらう実験です.テーマごとに筆跡の提示条件を変えることで,後に各テーマの記憶成績からどの条件が覚えやすかったのか?ということが分かるようになっています.

今回,私はこの実験を通して「自筆文字と類似度が高い筆跡で書かれた特徴は覚えにくいのか?」ということを検証したいのですが,人によって似ている筆跡は変わってしまいます.そのため,もし実験で使う全ての筆跡と自筆文字との類似度の差が小さければ,実験を行っても目的の検証ができません.よって,人によって似ている度合いが変わるような特徴の異なる筆跡を実験で使う必要があります.そこで,私は特徴記憶実験を行う前に筆跡間の類似度を求めることにしました!

まとめると,実験の流れは以下のようになります.

  1. 実験参加者の筆跡を収集する
  2. 実験参加者内の筆跡の類似度を求める
  3. 特徴の異なる4種類の筆跡を選定する
  4. 選定した4種類の筆跡を用いて特徴記憶実験をする
  5. 実験参加者の筆跡との類似度と筆跡ごとの記憶成績を比較する

そして,最終的な特徴記憶実験の結果がこちらになります!

まず,筆跡ごとに記憶成績の平均を比較したところ,手書きAと手書きCの間で有意差がみられました.そして,最も記憶成績が高かった手書きCは最も読みにくい筆跡だと評価されており,非流暢性効果と一致する結果となりました.

次に,3種類の類似性を用いて類似性ごとに記憶成績の平均を比較したところ,人の主観的な類似性と筆跡の特徴から見た客観的な類似性において,類似度が高いほど記憶成績が高い傾向がみられました.ここで,人の主観的な類性とは「人が筆跡同士を比較して感じる主観的な類似性」を意味し,筆跡の特徴から見た客観的な類似性とは「人がある筆跡の特徴を評価指標対を用いて評価した,その数値的な結果に基づく客観的な類似性」を意味します.一方,自己評価の類似性では類似度と記憶成績に関連はみられませんでした.

そのため,実験では仮説と反対の結果が得られました.ここで,非流暢性効果では「読みにくさという認知負荷が記憶しやすさに影響を及ぼす」と考えられています.今回,我々は「自筆文字はその読みやすさから認知負荷が小さくなっている」と考えたのですが,実際はそうではない可能性が実験結果から浮上しました.

今後の課題として,以下の3つを考えています.

  1. 自筆文字を含めて特徴記憶実験を行い,自筆文字の記憶しやすさを明らかにすること
  2. 最も記憶成績が低かった筆跡において文字間の幅が広いという特徴がみられたため,レイアウトが記憶に及ぼす影響について調査すること
  3. 今回用いた人の主観的な類似性を得る方法では,実験参加者数が増えた時に筆跡同士の比較が困難であることから,人の主観的な類似性を評価指標対を用いて表せないか検討すること

詳細に関しましては,後述するスライドと原稿をご参照いただければ幸いです.

発表スライド

論文情報

髙野 沙也香, 山﨑 郁未, 伊藤 理紗, 濱野 花莉, 菅野 一平, 中村 聡史, 掛 晃幸, 石丸 築. 筆跡の自筆との類似性が記憶容易性に及ぼす影響の検証, 情報処理学会 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), Vol.2022-HCI-196, No.2, pp.1-8, 2022.

感想

今回,コロナウイルスの感染再拡大に際しまして現地での発表を断念させて頂きました.初めての学会発表でしたので,現地で発表する経験を積みたいという思いはやはりあったのですが,今はこの決断を後悔していません.今後どこで発表しようかな,できるかなと同期のみんなと話を膨らませることが今は楽しいです.

ですが,私がそのように,今回のオンラインでの発表を良い経験だったと思えるのも,全ては発表時にとてもとても緊張していた私を励まして下さった中村研究室の皆さんのおかげだと思います.

また今回,初めての研究を通して自身の成長を感じることができました.テーマの提案から成果発表まで支えて下さった中村研究室の皆様ありがとうございました.

次こそは美味しいもの食べに,見たことないもの見に行くぞー!という気持ちで,今度は卒論に取り組んで行きます!

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